韓国の朴槿恵前大統領を退陣に追い込んだのは、空前の失業率に不満が爆発した若者の大規模デモだった。1月の若年層(15~29歳)失業率は8・1%と、日本の4・6%(15~24歳、17年12月総務省統計局調べ)に比べ、はるかに高い。韓国の若者は国の現状をどう捉えているのか。大企業、終身雇用とは無縁でも日々、懸命に働く若者を取材した。
日本の大学、高校生の就職内定率は約98%(16年度文部科学省、厚生労働省調べ)とバブル経済以来の高水準をたたき出している。
一方、就職氷河期と言われた1993年から2005年に就職活動に苦しんだ世代は40代に差し掛かり、今もなお、定職に就けない人も多く「失われた世代」と呼ばれる。
同じ事が今、韓国で起きている。97年アジア通貨危機以来の高い失業率。韓国では電子機器などで成長したサムスンや、自動車産業の現代(ヒュンダイ)など、財閥系へ志望者が集中。さまざまな要因はあるが、グローバル化による有能人材の流入で韓国人の新卒者が割を食っているのも理由の1つだという。
財閥就職がかなわなかった者は中小企業へ転換するが、終身雇用が難しいところもある。日本同様、派遣社員も増えてきた。
実際に失業を経験した若者に生の声を聞こうと、取材を申し込んだ。昨年、勤めていた会社が倒産した女性、ハ・ミンジさん(28)。第2の都市、釜山の大学を卒業後、仕事を探しにソウルに来た。なにしろ約5100万人の人口のうち、1000万人近くがソウルにいる。夢だった放送関係の会社に就職。その後、会社の突然の移転や、引き抜きなどで、3社目の会社だった。
零細制作会社だったが放送作家としてドラマ、映画、CM制作に携わった。ドラマ撮影で中国・北京へ2カ月間の長期出張もした。家賃60万ウォン(約6万円)で約30平米、ロフト付きのワンルームに女性2人暮らしをしながら、充実した生活を送っていた。
一方で給料が出ない月が続くことも。2カ月分の滞納があった昨年3月、社長から突然「倒産する」と通告された。今に至るまで、140万ウォン(約14万円)の給料2、3カ月分や、北京出張の日当すらもらっていない。
コンビニに行くお金すらなく、釜山の母から食べ物を送ってもらった。今はなんとか別の制作会社でフリーランスとして働いている。韓国の現状に「みんな中小企業に行きたがらないから、大企業に集中し失業率が高くなる。釜山にすら仕事がないのは、ソウルに全て集まりすぎるから」と訴えた。それによりソウルの物価は高く、ミンジさんらの給料では苦しい。若さで乗り切れる期間も限界がある。
首都一極集中、地方の空洞化は日本も似ている。20年東京大会へ向け成長を続ける一方で大会後、東京へ一極投資した“バブル”が崩壊すると懸念する声もある。開幕まで888日。韓国と事情は違えど、再び「失われた世代」が生まれないよう、対応策が求められる。【三須一紀】(おわり)