被災地の思いを胸に飛ぶ。9日に開幕する平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)のノルディックスキー・ジャンプ男子代表の葛西紀明(45=土屋ホーム)が5日、韓国入りした。出発した北海道・新千歳空港では、お忍びで活動していた東日本大震災の復興ボランティアで、交流のあった福島に住む高校3年生から激励のフラッグを受け取った。旗手も務める8度目の大舞台で、勇気を届ける。

 午前8時ごろ、新千歳空港で報道陣の取材に応じていた葛西に1人の青年が近づいてきた。決意に満ちた表情が、一瞬緩んだ。「久しぶり! 来てくれたの?」。その青年は福島・小高産業技術高に通い、北海道まで見送りに来てくれた渡辺和東(かずき)さん(18)だった。その手には似顔絵と「Fly! NOR1」の文字、そして被災地の方のメッセージが記されたフラッグがあった。それを手渡された。

 葛西 すごいね、うれしい。パワーになるわ。ありがとう。大きくなっててビックリした

 11年3月11日。葛西はW杯出場のためスロベニアにいた。あの東日本大震災を知った。大会会場で寄付金を募る予定だったが、けがで会場にいられず、活動できなかった。だが、それを知った現地の大学生が募金活動をしてくれていた。同年4月。葛西は集まったお金、マスクや水などの支援物資を直接渡すべく、福島へ向かった。福島・飯舘小で、葛西から激励を受けたのが、当時小学5年の渡辺さんだった。

 それ以降も夏に長野・白馬で行われる大会へ招待するなど渡辺さんら被災者とは交流が続いていた。ソチ五輪の銀メダルを見せ、いろんな人に触ってもらったこともある。被災地が元気になるなら、少しメダルが汚れるぐらいはいとわなかった。その恩返しの結集が、渡されたフラッグ。大事に畳んで機内に持ち込んだ。

 5時間後の午後1時ごろ。仁川国際空港に到着すると「目標は毎回同じです。金メダルを取りたい」と話した。その後、開会式で旗手を担う思いを聞かれた。

 「なかなか選ばれることもない大役。うれしく思っている。日本選手みんながパワーを出して、最高のパフォーマンスを出せるように旗を振ってエールを送りたい」

 人のため奔走する-。それが人間・葛西紀明。開会式はマイナス10度を超える寒さも心配されるが「カイロをたくさん持ってきました。体中に張って、開会式に出たい」と笑い飛ばした。レジェンドと称される理由。それは8回目の五輪というだけではない。【上田悠太】