天まで響くような大声の誓いだった。東京オリンピック(五輪)の男女マラソン代表が12日、福島・須賀川市で、64年大会銅メダリストの円谷幸吉さんの墓参りをした。

午前9時37分。日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(63)、五輪の公式ウエアに身を包んだ代表選手らが、姿を見せた。墓前には兄喜久造さん(88)が用意した幸吉さんが五輪選考会を勝ち抜いた時の写真も置かれた。1人ずつ線香を供え、目を閉じる。そして静かに手を合わせた。自国五輪の重圧の中で、メダルにたどり着いた功績、その偉大な故人の遺志に思いを巡らせた。

一通り終えると、瀬古リーダーは叫んだ。天国に届くぐらいの大きな声で-。

「代表選手、代表候補選手を連れて参りました。56年前、円谷さんが東京オリンピックで一生懸命走られたように、全力を尽くし、頑張る所存であります。円谷さん。応援してください。そして我々に力を貸してください。いい報告ができるよう、ワンチームで頑張っていきます。よろしくお願いします」。

選手、関係者の熱い思いに、涙した喜久造さんからは「最後の最後まで諦めず、頑張ってください」と激励された。それから選手を代表し、服部勇馬(26=トヨタ自動車)は再び墓前に立った。「きつい時、厳しい時は、天国から力を貸していただければ幸いです。1人1人が最大限の力を発揮して、最高のオリンピックにします」。時をまたぎ、先人の意志を受け継いだ。墓のある十念寺からは「悲願成就」の御札ももらった。墓参り後は「円谷幸吉メモリアルセンター」へ。故人の思い、日の丸を背負う覚悟を学んだ。歴史を胸に刻み、今を戦う力とした。

敗戦からの復興を目指す日本に元気をもたらしたのが幸吉さんの走りだった。あれから56年の時を経た、2度目の東京五輪も「復興五輪」の意義がある。9年前に震災に見舞われた前日11日の午後2時46分には黙とうをした。仙台育英高出身の服部は「力を最大限発揮すればメダル、入賞も見えてくるのではないか。プレッシャーも感じるが、夢の舞台であることには変わらない。いい結果を残せたら最高」。新型コロナウイルスの感染拡大により、大会の予定通りの開催可否も問われる中でも「やるべきことをやるだけ」と集中する。マラソンは「五輪の華」。偉大の先人のように、時を超えて、人々の心に残る走りを見せる。【上田悠太】