インターハイが中止になった君たちへ-。懸ける思いが強いほど、その目標が失われた時の喪失感は大きくなる。陸上男子110メートル障害の前日本記録保持者の金井大旺(24=ミズノ)は今、東京オリンピック(五輪)出場と歯医者になる夢を追っている。まったくジャンルが異なる2つを求めているからこそ、たどり着く目標の見つけ方を聞いてみた。

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まずは慎重に、金井は言葉を紡いだ。

「高校生はインターハイに向けて頑張っている。自分が高校生ならと考えると、前を向いて頑張ろうと言うのは難しい」

そう高校生の無念さをおもんぱかった。自身は高校総体を経験できただけに、今の高校3年生とは置かれる境遇は違う。それを理解した上で、続ける。

「僕から言えることは悔いなく、過ごして欲しい。競技を辞める人もいるかもしれませんが、今後の人生に悔いが残るかもしれない。それで辞めてしまい、人生の何年後に、あの時にやっておけばよかったと後悔する可能性があるならば、今後も続けてみるのも1つの手段かと思います」

もともと自身も北海道の進学校・函館ラサール高で競技は引退し、歯科大へ進む決意だった。そんな中、高校総体で不本意な成績だったこともあり、悩んだ末に続けようと翻意した。法大に進み、その後に日本記録も樹立した。「今しかできないことでもある」という。

もちろん、全員が大学、実業団など次のステージに進めるわけではない。高校生にもなれば、現実も見えてくる。

「受験勉強でも陸上でも、人生の全てのことに言えることですけど、何か1つに熱中をできることは数えるぐらいしかない。今後の人生でも限られてくる。陸上競技を真剣に頑張ってきた経験自体は、人生において絶対にプラスになると思います」

夢舞台で活躍する己をイメージし、朝から夜まで練習を積み重ねる。そもそも学校選びも部活を中心に選んだ人も多い。その目指してきた舞台が失われた今の高校生の喪失感は計り知れない。ただ、心にぽっかり穴が開いたような中でも、必死に前を向くことが求められる。そこには葛藤もある。切り替えることなど容易ではないが、目標の探し方を聞いてみる。

「僕は自分がやりたいこと、打ち込みたいと思うことでないと、本気で打ち込めないタイプ。社会の情勢で、選択肢を狭まれることもあるかと思いますが、本当にやりたいと思うことでないと、やっぱり人間は本当の潜在的な能力は発揮できないと感じている。そこは新しい道を切り開く時に、頭の隅に置いておいて欲しい」。

目標が途絶え、心のよりどころが失われると、自分が何をしていいか-。それが分からなくもなる。金井は「本当にやりたいことではない、自分の意志とは違う方向にいってしまう人もたくさん見てきた」ともいう。そして強調した。「まずはいろんなことに触れてみることが大事。でも正直、やってみないと分からない。世の中のいろんな物を見て、やりたいことを見つけていくのがいいのかな。自分の意志を見つけ、貫いて欲しい」。意志ある先に道は開ける。

自身は東京五輪が終わったら、歯医者の道に進む。そこで完全燃焼し、昨秋の世界選手権代表は歯科大を受験する。将来は実家の歯医者を継ぐ意向だ。「参加標準記録を早めに切って、まずは必ず東京五輪に出場すること。体の状態を合わせれば、結果は付いてくると思う」。自分の意志を貫き通し、信じた道を進んでいく。【上田悠太】