帽子の裏には｢笑｣…天理の伝統を守った中村良二が、監督を退いた今、想うこと／前編

高校野球の名門・天理で指揮を執った中村良二氏(57=大院大監督)が23年12月末で母校の監督を退任しました。春夏の甲子園で2度チームを4強入りに導き、太田椋(オリックス)、達孝太(日本ハム)と2人のドラフト1位選手を育てました。近鉄、阪神でプレーした元プロ指揮官の指導論とは…。前後編でお伝えします。

高校野球2024.02.22 06:00

堀まどか

戦績よりも大事なこと

天理の専用グラウンドである親里球場は奈良・天理市にある。

そのネット裏本部席の片隅に、亡き監督ゆかりの品が置かれていた。

86、90年と2度天理を全国制覇に導き、20年に他界した橋本武徳監督が生前に愛用したスコアブックや灰皿が並ぶ。

飲む人がいなくなっても、カップには毎日コーヒーが注がれ、白い湯気が立ちのぼる。

傍らのガラス棚には、天理と生駒の球児の笑顔が並んだマグカップ。

22年夏の奈良大会決勝で対戦し、同年9月に3年生だけで開催した練習試合の後の撮影写真で作った記念品だ。

夏の甲子園１回戦の山梨学院戦９回表、マウンドに集まって「底力」と記されたカードを確認する天理ナイン=2022年8月8日

監督・中村の真骨頂は、この一角に表れている。

戦績の記録ではなく、亡き恩師の形見や忘れられない思い出を飾ったスペースを設け、中村は天理の先輩にあたる天理大前監督の藤原忠理にチームを託して昨年末で監督を退いた。

15年8月から23年12月までの監督生活で全国制覇は果たせなかったが、17年夏、21年春と2度の甲子園4強で「天理復活」を全国に印象づけた。

オリックス太田椋、日本ハム達孝太と、2人のドラフト1位をプロ野球に送り出した。

日本ハムから指名あいさつを受ける天理・達孝太と中村監督（左）=2021年10月13日

育ててくれた恩師への敬意。コロナ禍に見舞われ、高校最後の試合を存分に戦えなかった相手校・生駒の3年生を思い、再試合を実現させた発想。

広い視野を持つことの大切さを部員たちに説いてきた監督らしさが、そこにあふれている。

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編集委員

堀まどかMadoka Hori

古代の王国トロイを発見したシュリーマンにあこがれ、考古学者を目指して西洋史学科に入学するも、発掘現場の過酷な環境に耐えられないと自主判断し、早々と断念。
似ても似つかない仕事に就き、複数のプロ野球球団、アマ野球、宝塚歌劇団、映画などを担当。
トロイの木馬発見！とまではいかなくても、いくつかの後世に残したい出来事に出会いました。それらを記事として書き残すことで、のちの人々が知ってくれたらありがたいな、と思う毎日です。