【生駒と天理の友情〈5〉】忘れ得ぬ夏　苦難が人生を豊かにする縁に／2023卒業

昨夏の決戦は、秋に幕を閉じました。2022年の全国高校野球選手権奈良大会は全国王者の経験を持つ天理と生駒の顔合わせになりましたが、生駒がコロナ禍でベストメンバーをそろえられないまま臨戦。試合は21－0と天理の圧勝に終わりましたが、生駒の苦境に配慮した天理ナインは喜びの感情を抑え、静かな幕切れを選びました。さらに天理の中村良二監督（54）が3年生による練習試合を提案し、9月11日に実現。互いが互いを思い、深い交流が生まれた背景を5回連載で綴ります。（敬称略）

高校野球2023.04.11 11:00

堀まどか

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高3が小学生みたいな笑顔

忘れられない夏を越え、2023年春、天理、生駒の選手たちはそれぞれの進路に旅立っていった。

天理の本拠地、親里球場の右中間フェンスから「つなぐ　心ひとつに」の横断幕が天理野球部を見守り続けた。

22年7月28日の全国高校野球選手権奈良大会決勝で、コロナ禍に見舞われた生駒に配慮して天理ナインは優勝の喜びを封印。心遣いへの感謝を込め、生駒保護者会が昨夏の甲子園に臨む天理に贈った。アルプスにも飾られた横断幕を、天理監督の中村良二は大会終了後も大切にした。

スタンドには夏の甲子園に出場した天理に生駒から贈られた横断幕が掲げられた＝2022年9月11日

中村甲子園が終わって翌日から新チームの練習が始まったんですけど、やっぱり3年生が残した物だし、3年生が卒業するまではと。生駒の思いもある。それはずっと続くんですけど、見える物として、ぼくらも見ておきたいと。

昨年9月11日の佐藤薬品スタジアムでの再試合後も、天理と生駒の間には交流が続いた。部員たちの記念になるようにと、中村の知人が試合後の記念写真を使ったマグカップを作ってくれた。中村はそれを生駒に持っていった。

再試合を記念してガラス工房ＯＮＯの尾野社長が作ってくれたマグカップが、生駒に贈られた

中村めちゃくちゃ喜んでくれて。高校3年生が小学生みたいな笑顔を見せてくれたんです。

後日、生駒から天理にうれしい返礼が届いた。

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編集委員

堀まどかMadoka Hori

古代の王国トロイを発見したシュリーマンにあこがれ、考古学者を目指して西洋史学科に入学するも、発掘現場の過酷な環境に耐えられないと自主判断し、早々と断念。
似ても似つかない仕事に就き、複数のプロ野球球団、アマ野球、宝塚歌劇団、映画などを担当。
トロイの木馬発見！とまではいかなくても、いくつかの後世に残したい出来事に出会いました。それらを記事として書き残すことで、のちの人々が知ってくれたらありがたいな、と思う毎日です。