【生駒と天理の友情〈1〉】快進撃の生駒 決勝直前にコロナ集団感染…/2023卒業

昨夏の決戦は、秋に幕を閉じました。2022年の全国高校野球選手権奈良大会は全国王者の経験を持つ天理と生駒の顔合わせになりましたが、生駒がコロナ禍でベストメンバーをそろえられないまま臨戦。試合は21-0と天理の圧勝に終わりましたが、生駒の苦境に配慮した天理ナインは喜びの感情を抑え、静かな幕切れを選びました。さらに天理の中村良二監督(54)が3年生による練習試合を提案し、9月11日に実現。互いが互いを思い、深い交流が生まれた背景を5回連載で綴ります。(敬称略)

高校野球

7月28日奈良決勝→9月11日「引退試合」

月の美しい夜だった。

木々を灼(や)いていた晩夏の太陽が山の端に沈み、月が皓々と照らす奈良・橿原市の佐藤薬品スタジアム。天理と生駒、両校ナインがマウンド付近で抱き合い、声をあげる。古都のうっそうとした緑の中、そこだけが異空間だった。

2022年9月11日、7イニング制で行われた練習試合。7回2死で、3-2と1点リードの天理内野陣がマウンドに集まる。

伝令がベンチから走り出て何かを告げたあと、生駒の最後の打者の打球を中堅手がつかんだ。天理ナインはグラウンドの選手に加え、ベンチから走ってきた選手が人さし指を掲げてマウンドへ。三塁側ベンチに座る生駒ナインに、天理の内野手、内藤大翔(やまと)が「来いよ!」と声をかけた。

生駒ナインも走ってきた。全員で抱き合い、喜び合い、思いを1つに。内藤は「最高の引退試合になりました」と笑った。

生駒を破りマウンドで喜ぶ天理ナイン。内藤大翔内野手の「来いよ!」をきっかけに大きな輪へ=2022年9月11日

生駒を破りマウンドで喜ぶ天理ナイン。内藤大翔内野手の「来いよ!」をきっかけに大きな輪へ=2022年9月11日

7月28日の奈良大会決勝で、封印された歓喜の情景だった。

5年ぶりの天理か、初めて決勝に進んだ生駒か。夏の甲子園の奈良代表を決めるハレの日、佐藤薬品スタジアムは早朝から騒然となった。

生駒に、異変が起きていた。準決勝で強豪・智弁学園を撃破したメンバーが、スタメン表から姿を消していた。天理を率いる中村良二は、まさかの思いで生駒ベンチを見つめた。

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古代の王国トロイを発見したシュリーマンにあこがれ、考古学者を目指して西洋史学科に入学するも、発掘現場の過酷な環境に耐えられないと自主判断し、早々と断念。
似ても似つかない仕事に就き、複数のプロ野球球団、アマ野球、宝塚歌劇団、映画などを担当。
トロイの 木馬発見! とまではいかなくても、いくつかの後世に残したい出来事に出会いました。それらを記事として書き残すことで、のちの人々が知ってくれたらありがたいな、と思う毎日です。