新連載【高砂部屋の面々】「お前、出てんじゃねーか!」角界一の大家族の日常伝えます

人と人とのつながりが、平成の時、ましてや昭和の時とは大きく変化している令和の現在-。そんな時代の変化に逆行するように、大相撲の高砂部屋では力士たちが、大家族のような濃密な日常を過ごしている。5月の夏場所で、番付にしこ名が載る力士は26人となり、全44部屋で最多となった。角界一の“大家族”の日常の一部を「高砂部屋の面々」と題し、不定期連載で紹介していく。

大相撲

新弟子検査後、ガッツポーズで意気込み。中学時代は剣道部

新弟子検査後、ガッツポーズで意気込み。中学時代は剣道部

序ノ口 朝櫻井

朝櫻井祥太(あささくらい・しょうた)

本名・櫻井祥太。2007年(平19)11月18日、宮城・塩竈市生まれ。中学時代は剣道部に所属し、今春卒業後に相撲未経験で高砂部屋に入門。3月の春場所で初土俵扱いも、同場所は新型コロナウイルス感染対策で前相撲が行われず、4月に延期された新弟子に合格。前相撲を経験せず、5月夏場所の序ノ口土俵が実質的な初土俵となった。夏場所は1勝6敗。家族は両親と弟2人。173センチ、131キロ。

朝乃山の化粧まわしで新序出世披露に臨んだ朝櫻井

朝乃山の化粧まわしで新序出世披露に臨んだ朝櫻井

夏場所に初土俵、中学卒業ホヤホヤ15歳

4月5日。今年も高砂部屋に、卒業間もない新たな仲間が加わった。櫻井祥太。今春、宮城・塩釜市の中学を卒業したばかりの15歳だ。相撲は未経験。前日4日が東京・両国国技館での新弟子検査で、その1日前の3日に人生初の上京を果たしたばかり。この日は初めてまわしを着け、初めて土俵に立ち、初めて稽古に参加した。右も左も分からず、先輩力士が土俵で稽古している間は、どこにいれば、何をしていればいいかも分からず、キョロキョロ。ただ、初めて着けた真新しいカチカチの黒まわしの着け心地の悪さだけは、ずっと気になっていた。

土俵脇に立っていると、隙を見てはモゾモゾと、まわしの位置を直した。上がり座敷にいた部屋のアドバイザーで、元三段目の松田哲広さん(62)が「股ずれか? 最初はみんな、そうなるもんだ。そのうち慣れてくるから」と、優しく声をかけた。櫻井は、少し恥ずかしそうにうなずいた。

初めて参加した部屋の稽古も、終わりが近づいた。兄弟子が股割りする間、櫻井も見よう見まねで、両足を広げて前屈。やったことがないので当然、兄弟子たちのように、胸に土をベッタリと付けられるほど、体は柔らかくない。「うーん、うーん」と、一生懸命、体を曲げようとする姿が、ほほ笑ましかった。先輩力士たちも、温かい目で見守っていたが、次第に「クスクス」という声が漏れ始めた。稽古中のため、誰も歯を見せて笑うことはできなかったが、たまらず誰かが指摘した。

「お前、キ○タマ出てんじゃねーか」。

稽古場中に響き渡る大爆笑が起きた。櫻井は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。ただ、どこかよそよそしかった、先輩力士たちと新弟子の距離が、一気に縮まった瞬間でもあった。

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1999年入社。現在のスポーツ部ではサッカー(1)→バトル→五輪→相撲(1)→(5年半ほど他部署)→サッカー(2)→相撲(2)→ゴルフと担当。他に写真部、東北総局、広告事業部にも在籍。
よく担当や部署が替わるので、社内でも配った名刺の数はかなり多い部類。
数年前までは食べる量も社内でも上位で、わんこそばだと最高223杯。相撲担当になりたてのころ、厳しくも優しい境川親方(元小結両国)に「遠慮なく、ちゃんこ食っていけ」と言われ、本当に遠慮なく食べ続けていたら、散歩から戻った同親方に「いつまで食ってんだ、バカヤロー!」と怒られたのが懐かしいです。