「タケ、お前に見せつけるわ」。

ドイツでしのぎを削る男のキックは威力満点。カーブのかかったシュートが次々と、ゴールネットを揺らす。「タケ、ちっちゃいね」。サッカー日本代表MF原口元気(30)は、まるで少年のようなまなざしでボールを蹴りこんだ。ペナルティーエリア手前中央からのシュート練習。ゴール前で対峙(たいじ)するのは、同じく日本代表のMF久保建英(19)。10歳以上も年下に対し、“容赦”はない。

GK役を交代すると、久保のエンジンがかかった。「元気君。頼みますよ」。ニヤリと笑う久保の左足から放たれたシュートは、鋭いカーブがかけられ、ストンと落ちた。スペインで奮闘する日々の中で「シュート練習はしてきた」と言うだけあって、ゴール両隅へコントロールされ、原口の動きが止まる。「うわ~ひどい。(GK)諦めといて良かった」と悔しがる表情を横目に、久保のシュートは、さらに鋭利さを増す。ただ“先輩”としての意地もある? 原口は、難しいシュートを2度もファインセーブしてみせた。

もちろんこれは“遊び”の延長。故障には最善の注意を払い、つかの間の時を過ごした。新型コロナウイルスの影響で、宿舎内での各選手の行動には制限がかかる。部屋の行き来が禁止され、息抜きのリラックスルームも廃止された。文字通り“缶詰め”の状態が続く。サッカーだけでなく、他のスポーツ競技の選手、もちろん一般社会でも、多くの人がストレスを抱える日々。発散する場も、術も限られる。30日の全体練習後に行われた2人の気分転換。そこには、とても和やかな空気が漂っていた。身だけでなく、心も整え、日本代表は活動を続けていく。【栗田尚樹】