金メダルを期待される男子50キロ競歩で、衝撃的な日本新記録が誕生した。日本歴代2位の記録を持っていた川野将虎(21=東洋大)が3時間36分45秒で初優勝し、20年東京オリンピック(五輪)の代表に内定した。

今秋の世界選手権で金メダルを獲得した鈴木雄介(31=富士通)が持っていた従来の記録を2分22秒も更新。歩型違反の警告もなし。日本勢によるワンツーフィニッシュの夢も膨らむ、底知れぬポテンシャルを示した。

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両手を天に突き上げ、川野は夢のフィニッシュテープを切った。思い描き続けた東京五輪をつかんだ。「強い思いがあった。本当にうれしい」と笑った。中盤から後半まで丸尾と一騎打ち。揺さぶりに何度も耐え、丸尾の動きが鈍くなったのを感じ取った。42キロでスパートし、勝負を決めた。

タイムは驚異的だった。「予想外。自分でも驚いている」。3時間36分45秒は世界でも今季最高で歴代11位。従来の日本記録は鈴木が4月に樹立したもので、その鈴木は世界選手権で金メダルを獲得したから大きな価値を含む。歩型違反の警告がなかったのも、世界で通用する資質を備えることを意味する。自衛官の父公明さん(47)から受け継いだ長い手足と「天性」(酒井瑞穂コーチ)の接地時間の短さがスピードの理由。体幹強化で後半に背中が丸くなる悪癖も消え、骨盤位置など正しいフォームを持続できるようになった。

サプライズ? は競歩との出会いもだった。静岡・御殿場南高で入学後、初の大会で指導者から出場希望の種目を問われ、迷わず「5000メートル」と答えた。だが実際は「5000メートル競歩」にエントリーされていた。知ったのは直前。「3日」だけ練習して挑み、結果はブービーと1周差の断然の最下位。「もう2度とやらない」と思ったが、失格者が出て、まさかの県大会の出場権を獲得。「競歩をすれば足も速くなる」と諭されたこともあり、しぶしぶ練習をしてみると、記録が伸びた。週1回は御殿場の上り坂を30キロ歩くほど魅力に取りつかれた。

性格は負けず嫌い。公明さんは小学校低学年の頃を思い出す。「ムシキングのゲームで上級生に負けたら、すごく悔しそうに泣いてました」。ジャンルは違え、競歩も同じ。世界選手権は選考会で鈴木に敗れ、日本歴代2位のタイムも切符を逃したが、今度は記録も順位も文句なしだった。

東京五輪は「金メダルが第1目標」。まだ大学3年生。続く急激な成長には、余地が残る。【上田悠太】

○…3時間37分39秒の2位だった丸尾は、中盤の川野との並歩で、前にポジションを取ったことを悔いた。勝負の後半へ向け、脚を温存したかったが「引っ張ってしまった。無理やり下がればよかったかもしれない」。タイムでは従来の日本記録を上回ったが、東京五輪の内定は逃した。「悔しいというより、力が足りなかった。今の力は出し切った」と話した。

◆川野将虎(かわの・まさとら)1998年(平10)10月23日、宮崎・日向市生まれ。名前の由来は寅(とら)年生まれで「虎」の字が決まり、長尾景虎(上杉謙信)と同じ「景虎」も有力候補となるが、最終的には「将虎」に。静岡・須走小では柔道を習い、須走中では卓球部で、シェークハンド。50キロ競歩は3度目で、2度目の挑戦だった4月の日本選手権は日本歴代2位(当時)の3時間39分24秒をマーク。20キロの自己記録も日本歴代3位となる1時間17分24秒。乃木坂46のファンで、推しは秋元真夏。178センチ、62キロ。