女子やり投げ日本記録保持者の北口榛花(22=JAL)が新しい助走に手応えを得た。63メートル45で初優勝した。

最終6投目。スピードに乗った助走から放たれたやりは、高い放物線を描いた。小雨を切り裂き、60メートルのラインを大きく越えた場所に突き刺さった。今季2試合目で、昨年に出した66メートル00、64メートル36、63メートル68に続く自身4番目。自己ベストではないが、新たな挑戦が形になったことに意味があった。「(今季の)1試合目よりも確実に成長した自分を出せたのではないかと思う。大会記録(60メートル68)を目標の1つにしていた。更新できてうれしい」と喜んだ。

東京オリンピック(五輪)の延期が決まり、1つのチャレンジに踏み切った。助走の改善-。全体の歩数は16で同じだが、最初の正面を向いたまま勢いをつける「保持走」を8歩から10歩に。その後の体を半身にひねって進む「クロス走」は、反対に8歩から6歩とした。前向きに進む「保持走」を増やし、横向きに走る「クロス走」を減らすことで、助走のスピードアップを目指した。

今季初戦だった8月のセイコー・ゴールデングランプリでは優勝するも、記録は59メートル38。身体能力や柔軟性は抜群だが、器用なタイプではない。新助走が体になじむのには、時間がかかった。

習得の過程は、地道な作業の繰り返しだった。最初はうまくいかなかったが、進歩は感じていた。しっかり考えないと、うまく出来なかった足さばきが、少しずつ無意識にできるようになってきた。「頭で考えないといけない状態からは脱せている」。助走が速くなれば、飛距離にもつながる。さらに成長速度が加速することを予感させる快投だった。

5投目にも62メートル88をマーク。思わず「よし」と言った。スタジアムは同時進行中だった女子100メートルの号砲前の静けさに包まれていただけに「少し響いて。申し訳ない」。それもご愛嬌(あいきょう)。競技の合間の休憩時間には、大好きなカステラを食べて、エネルギーをチャージ。その後の好記録の2連発につなげた。

この感触を忘れず、日本選手権(10月1~3日、新潟)に生かす。完成度を高めて、東京五輪へ向かっていく。