先週、遅ればせながら2016-2017年シーズンのPGAツアーを総括してみた。今シーズンの予想もズバッとしたいところだったが、正直なところに想定ができない。「松山英樹が年間王者」「ダスティン・ジョンソンの時代」などと分かりやすく色付けができればいいのだが、そう簡単にはいかない気がする。今回はこんなにも歯切れの悪い予想になってしまった言い訳をしたいと思う。その理由は、近年のPGAツアー全体のレベルにあるのだ。

抜きんでた存在だったタイガー・ウッズ
抜きんでた存在だったタイガー・ウッズ

●「タイガー・ウッズ後」の時代

 2013年に5勝を挙げて以降、ツアーの中心に戻ることができていないタイガー・ウッズ。そのブランクはもうかれこれ5年になろうとしている。いいニュースも悪いニュースも、何か動向があればゴルフ界がワッと沸き立つのだから、まだまだその存在感は強いままだ。

 タイガー不在の間に起こったのは、若手選手の隆盛だ。14年に全英オープンと全米プロゴルフ選手権を制しメジャー勝利数を積み重ねたローリー・マキロイをはじめ、15年の年間王者ジョーダン・スピース。そして今シーズン、自身初のメジャー優勝を含む年間5勝を挙げたジャスティン・トーマスら20代の若手選手がツアーを引っ張る。世界ランク上位を見れば、松山英樹やジョン・ラーム、ブルックス・ケプカなど実力者が次から次に出てきている。

 こうした状況は「本命の不在」とか「タイガーみたいなすごい選手はもう出ない」など悲観的にとらえられがちだが、実情はそうではない。PGAツアーは史上最も高いレベルで上位の実力が拮抗しており、抜きん出る選手がいないという状況なのだ。

●PGAツアーの全体的なレベルが上がっている

 同一シーズンでメジャーを複数回制する選手は、3シーズン前のジョーダン・スピースを最後に出ておらず、近年では今シーズンのセルヒオ・ガルシアやケプカのように「メジャー初勝利」を挙げる選手が多く出るなど、メジャーの優勝争いも毎回混戦となっている。

現在のツアーを代表する1人、ジョーダン・スピース
現在のツアーを代表する1人、ジョーダン・スピース

 では10年前と比べてツアー全体の状況はどうか。07年シーズンといくつかの項目を比べてみた。ちなみに同シーズン、タイガーは全米プロゴルフ選手権を含む年間7勝を挙げている。

 平均ストロークではタイガーが「67.79」という異次元の数値を叩き出し1位となっているが、ランキング10位同士の選手の差はわずかだが17年シーズンのほうが0.07打低い。同じく平均パット数でも0.006打、17年シーズンのほうが低くなっている。ラウンド数をバーディ数で割ったバーディ率では、1位のタイガーとスピースを比較するとスピースが0.46も高い。17年シーズンの10位はブラント・スネデカーの4.06だが、これは07年シーズン1位のタイガー(4.03)より高い数字になっている。

●「59」がハイペースで出る時代

 昨シーズンPGAツアーでは2度も「59」という驚くべきスコアが出ている。1回目は1月に行われたソニーオープンでトーマスが記録し、その翌週にはPGAツアー未勝利だったアダム・ハドウィンがキャリアビルダーチャレンジの3日目に達成した。また9月に行われた下部ツアーのウェブドットコムツアー選手権でも、石川遼の同組のサム・サンダースが13個のバーディを奪い「59」を記録している。

 PGAツアーで50台が初めて出たのは1977年のことだ。それからわずか9回しか達成されていない記録だが、昨年のジム・フューリックの「58」を入れると、1年以内に3度も超ビッグスコアが出ていることになる。

 ツアー全体のレベルが向上している背景にティーチングとテクノロジーの進化が挙げられる。ゴルフスイングが体系立てて考えられるようになり、10年に1人しか出てこなかったレベルの選手のスイングが分析され、その技術がティーチングによって広くシェアされている。スイングだけではなく、例えば全盛期の「タイガーのフィジカル」や「ジャック・ニクラウスのメンタル」といった超一流の能力を、専門の知識を持ったトレーナーから学ぶ事もできる時代だ。

 さらに理想となる動きと自分の動きの差異を計測機器によって可視化することができるため、感覚に頼らず定量的な観点からスイングを構築することができているのだ。そういったテクノロジーの恩恵を若いうちから受けられる世代の成長と進化はとても早い。

 そしてその世代がトーナメントの上位に名を連ねる現代は、人間の動き精度が限界まで近づいている状態に近いといえるだろう。そんな理由から、やはり17-18年シーズンの予想は難しい。

 ただ言えるのは、今シーズもとてつもなくレベルの高いゴルフを見ることができるということだ。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)