欧米のコーチングの世界ではデビッド・レッドベターやピート・コーウェンのように、黎明期から活動をしているコーチたちがまだまだ現役で活躍しており、選手から高い人気を誇る。一方で若いコーチも台頭してきており、この2つが相まって選手たちに高い技術力が供給されているのだ。


●若手のコーチを育てるティーチャー・オブ・ティーチャー


 欧米で若手のコーチが育つ理由として、コーチを教える専門の「ティーチャー・オブ・ティーチャー」と呼ばれる人たちの存在がある。

インストラクタープログラムを行うヤン・フー・クォン氏
インストラクタープログラムを行うヤン・フー・クォン氏

 若いコーチたちがティーチングやコーチングを学ぶときに独学で知識を身に着けることはなく、専門のインストラクタープログラムを受講する。これはPGAの資格試験のようなものではない。コーチたちは自ら身に着けたい技術のプログラムを探して受講するのだ。中にはとても細かい学術的な話のようなものもあるし、クラブプロとしてゴルフ場運営の方法を学ぶビジネススクールのようなものもあり、学びの内容は多種多様だ。

 私自身も気になるコーチや、スイング理論のプログラムがあればアメリカまで話を聞きに行くことがある。プログラムはだいたい2~3日間程度の座学で構成されている。教える側は現役のコーチである事が多いが、最近は大学教授などが行うものも人気が高い。前者は単に経験談ではなく、みずからの理論を軸にこれまでの経験を肉付けして、より実践的な内容を教えてくれる。後者の場合は、バイオメカニクス(生体力学)のような最先端の研究結果を学ぶ事ができる。

 コーチの中でもティーチャー・オブ・ティーチャーになる人は、自分の考えを体系立てて整理できている人、選手に対しても教えるコーチに対しても論理的な人が多い。またゴルフのスイングという1点にとどまらず、ほかのスポーツや体の仕組みなど広い分野に興味を持っている人が多いように思える。

 タイガー・ウッズを教えるクリス・コモに大学で生体力学を指導したヤン・フー・クォン、ローリー・マキロイのパッティングコーチを務めるフィル・ケニオンを教え子に持つデビッド・オーは体系立てられた教育プログラムを持っている。彼らは非常に論理的に物事を考えるタイプだったが、それでいて難解な物事を伝えるのがとても上手だった。


●海外に輸出される最新技術


 最近人気のあるティーチャー・オブ・ティーチャーたちは、アジアを中心とした海外でもインストラクタープログラムを開講することが多い。

 アジアの決して裕福ではない若手のコーチがこうした高額なプログラムをこぞって受講するのは、スイング理論というものが自分で試行錯誤して思いつくようなものではないからだ。人それぞれ違うスイングを1つの理論で解決することは無理がある。コーチとして若いうちから生徒の信頼を得るために、これまで先人たちが築いてきた知見をインプットするのが効率的である。

タイでコーチ向けのプレゼンテーションを行うキャメロン・マコーミック氏
タイでコーチ向けのプレゼンテーションを行うキャメロン・マコーミック氏

 そんなアジアの中でも特にタイは、ジョーダン・スピースのコーチ、キャメロン・マコーミックなど欧米の有名コーチが多く訪れ、コーチへの教育活動が活発に行われている。コーチ教育の結果、優秀な選手が育つ好循環が生まれている。アジアンツアーでは賞金ランキングトップ10に4人のタイ人選手が入り一大勢力となり、アリヤ・ジュタヌガンなど世界的な選手も輩出されている。

 アジアと欧米では教えている内容はもはや変わりはない。どちらも最先端でトップクラスの選手に適応されるような内容だ。であればそこから先、差がつくのは教わっているコーチたちのモチベーションだと思う。

 一語一句聞き逃すまいと真剣にメモを取る若いコーチの卵たちの目を見ると、東南アジアのゴルフが欧米と肩を並べる日は、そう遠くないという気がする。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)