PGAツアーには「ショットリンク」というシステムがある。予選から最終日まで、全ショットの距離などをすべて計測したデータを見る事ができる。そのショットリンクの数値を見てみると、松山英樹とタイガー・ウッズとの共通点が見えてきた。


●距離が長いほど精度を増すアイアン


 PGAツアーのコーチたちに松山の強みを聞くと、口々に「アイアンショットの精度が素晴らしい」という答えが返ってくる。ではショットリンクの指標ではどうだろうか。

 ショットリンクの中に、距離別にグリーンを狙うショットの精度を知る事ができる "APPROACH THE GREEN" という指標がある。特定の飛距離からグリーンをとらえた割合を示す指標だ。

 松山はこの指標で150ヤード以上の距離において、2016-2017年シーズンではいずれもトップ10に入っている。

・150-175ヤード 5位

・175-200ヤード 8位

・200ヤード以上 5位

 松山のドライバーの平均飛距離は26位とトップクラスとは言えない。PGAツアーでは500ヤードを越えるパー4、600ヤードを越えるパー5がいくつもあるため、ドライバーの飛距離でアドバンテージを出せない松山は、長い距離の2打目の精度を上げることでトップクラスの成績を残すことができているのだ。


●タイガーの真骨頂は200ヤードからの精度


 ショットリンクの指標を開発したコロンビア大学ビジネススクールで教授を務めるマイク・ブロディはタイガーの”凄み”についてこう言っている。

 「タイガーが圧倒的にほかの選手と違っていたのは、200ヤードからの正確性だと思う。もちろんティーショットの飛距離もパッティングも一級品だったが、長い距離の精度は群を抜いていた」

 メジャー2勝を含む年間9勝を挙げた2006年を例にとって見てみると、 "APPROACH THE GREEN" のデータがブロディの言葉を裏付けていた。

・150-175ヤード 1位

・175-200ヤード 1位

・200ヤード以上 1位

 圧巻である。

 数字上ではタイガーの域には達していないが、200ヤードからでもピンを狙っていける松山のスタイルはPGAツアーのコーチたちからも高く評価されている。

 また今シーズンの終盤にかけて「距離の伸びを感じた」というのは、現地で頻繁に松山のプレーを見ている解説者のレックス倉本だ。

 「松山は日本人の中では飛ぶほうの部類だが、PGAツアーの中では平均的な飛距離だった。しかし昨シーズン終盤の試合では、飛距離を武器にしている選手たちをオーバードライブするシーンが何度も見られた。これまで行ってきたフィジカルトレーニングがようやく結果に結びついてきたのかもしれない」

 スコアリンクのデータでも2014~2016年は平均飛距離が294ヤードだったのだが、2017年シーズンは303ヤードまでその数字を伸ばしている。トップ選手の場合、10ヤード以上もの飛距離の伸びが数字に表れることは非常に稀だ。

 長い距離の精度に加えて飛距離でもトップクラスの選手に近づきつつある松山の2018年に期待したい。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)