ここ数年ＰＧＡツアーでは、ジョーダン・スピースやジャスティン・トーマスといった若手の選手が多く台頭している。これと同じようにツアーに新しい風を吹き込んでいるのが、新興ギアメーカーのＰＸＧだ。ゴルフ好きのアマチュアが私財をつぎ込んで設立したこのメーカーは、ＰＧＡツアーでは８人の選手と契約をし、契約外の選手でもセッティングに加える選手もいる。「クラブ開発のためならコストと時間を惜しまない」と明言する名物創業者に話を聞いた。

●突然かかってきた秘書からの電話

　近年のゴルフクラブは非常に複雑で、特殊な技術が必要になるため新しいメーカーが参入しにくい。マーケット規模は縮小傾向にあるが技術開発競争が激しく、そういった背景からナイキのような大手メーカーの撤退も起こっている。

ＰＸＧ創業者のボブ・パーソンズ氏（右）と筆者

　そんな中インターネット関連事業で財を成したボブ・パーソンズ氏が、多額の開発資金を拠出して設立したのがＰＸＧだ。

　今ではザック・ジョンソンやシャール・シュワーツェルなどのメジャーチャンピオンをはじめ、女子でもメジャー覇者のリディア・コやブリタニー・ラングなどの選手も契約選手として名を連ねている。キーガン・ブラッドリーなどのコーチを務めるジム・マクリーンも同社と契約を結んでいる。

　そんな、今もっとも勢いのあるクラブメーカーの創業者の話を聞いてみたくなり、これまで何度もコンタクトをしてきた。しかし本業の経営者としても多忙を極めるパーソンズ氏からはなかなかよい返事をもらえず、半ばあきらめていた。

　２０１７年の２月、フェニックス・ウェイストマネジメント・オープンでアリゾナを訪れた際も、同社の本社がある事から取材の希望を出してはいたのだが、その電話は突然かかってきた。

　「取材の申請をもらっているＰＸＧの者だが、３０分後に社長のアポが取れたから本社まで来てほしい」

　３０分後とは、さすがに超多忙を極める敏腕経営者。海外ドラマのようだ。しかしこちらもトーナメント取材中でそんなにすぐには調整ができない。連絡をもらったお礼を告げ、何とか時間をずらしてもらえないか調整をしてもらい翌日のアポイントをもらった。

●隣に飛行場がある本社社屋

　翌日訪れたＰＸＧの本社は、飛行場の横に位置する巨大な社屋だった。現在１５の会社を経営するという多忙なパーソンズ氏がプライベートジェットで訪れることを想定したものだろう。

　本社には会社としての機能に加えて、大型バイクをはじめとする記念品などを展示するミュージアムやバーカウンターも併設されていた。そして１階の待ち合いスペースには、ゴルフシミュレーターがずらりと５台ばかり並んでいる。

ＰＸＧ社の施設内

　３０分ほど待つとかっぷくの良い声の大きな男性がやってきた。パーソンズ氏だ。ようやく話ができると思いきや、私の隣にいた男性と何やら話し込み、そのままシミュレーターの打席に移動してしまった。その男性とは時折ボールを打ちながら談笑を交えて何やら話し込んでいる。どうやらフィッティングを始めてしまったようだ。

　そんな２人のやり取りが３０分ほど経つと、ようやく私の番が回ってきた。

　「はじめまして」

　「やぁ、君が日本から来たヒロか」といった挨拶を済ませると、パーソンズ氏は会社や展示物の説明をはじめてくれた。耳には大きなピアスの穴があり、格闘技のプロモーターやアームレスラーのような雰囲気をまとっていたので、とっつきにくい人かと思ったのだが、初対面でどこの馬の骨ともわからない東洋人の私ともフランクに話をしてくれた。

　説明の最中に「パーソンズさんはいつも先ほどの男性に行ったようなフィッティングをしているのですか？　私もやってもらいたいな」などとダメもとでリクエストしてみたところ、「よし、じゃあこっちに来い！」と引っ張られて打席に連れていかれた。

　まさかの億万長者、直々のフィッティング！　そしてフィッティングの後にはなんと社長室へ！？　ＰＸＧ本社の探訪記は来週に続きます。

　◆吉田洋一郎（よしだ・ひろいちろう）北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル２１勝に貢献した世界ＮＯ・１コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ２度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米ＰＧＡツアー選手を指導する８０人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」（実業之日本社）では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ　http://hiroichiro.com/blog/

（ニッカンスポーツ・コム／ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米ＰＧＡツアーティーチングの世界」）