第5のメジャーと呼ばれる、ザ・プレーヤーズ選手権。ウェブ・シンプソン(32=米国)が2位に4打差をつけて今シーズン初勝利を飾った。松山英樹、小平智といった日本を代表するショットメーカーも予選落ちを喫したフロリダ州のTPCソーグラスは、全米屈指の難易度を誇るトーナメントコースだ。そんなTPCソーグラスに活動の拠点を構えるコーチがいる。


●コーチも憧れる全米トップクラスの環境

TPCソーグラスに昨年新設されたパフォーマンスセンター
TPCソーグラスに昨年新設されたパフォーマンスセンター

 多くのプレーヤーが苦しむ17番ホールのパー3に代表されるように、TPCソーグラスは池がらみのホールが多く、トーナメントコースの中でも屈指の難易度を誇る。

 そんな難コースに、昨年新しいパフォーマンスセンター(ティーチングを受ける施設)が建設された。そして、その新設されるパフォーマンスセンターのヘッドコーチとして招聘されたのがトッド・アンダーソンだ。

 アンダーソンは現在、ビリー・ホーシェル(31=米国)らのコーチを務めている。

 「本当にここ(TPCソーグラス)にきて満足している。スタッフ、生徒、設備やコース、とにかくすべてが素晴らしい」(アンダーソン)

 PGAの本部もあるTPCソーグラスにふさわしく、パフォーマンスセンターには、弾道解析機のトラックマンはもちろんのこと、地面方向にどれだけ力がかかったかを測定するプレッシャーマットなどの最近機器がそろう。

 しかしアンダーソンはこうした器具は「スイングを数値化する手法の一つに過ぎない」と言う。

 「例えば計測機器でヘッドスピードを計ったとします。50m/sだったものを、53m/sに上げるのはとても簡単です。軽いドライバーに変えればいいのですから。これは極端な例だが、数値だけに頼っているとそういうことが起こりがちになる。大事なのは数字から何を読み解くのかということだ」

 私自身もそうだが、アンダーソンもティーチングを始めたころにはビデオ撮影をするぐらいしか分析をする機器はなく、ディボットの形や球筋から修正点を割り出していた。そういった経験は今でも生きているという。


トラックマンなどの機器を駆使してレッスンを行うアンダーソン氏
トラックマンなどの機器を駆使してレッスンを行うアンダーソン氏

●ホーシェルに裸足でボールを打たせる


 アンダーソンがコーチを務めるホーシェルは、時折、裸足でボールを打つ練習をしている。トップツアーに参戦する選手が、「スポ根アニメ」のような練習に取り組む姿は少し滑稽だが、これにはアンダーソンの明確な意図がある。

 ホーシェルのスイングはインパクトからフォローで左足が浮いて、つま先の向きが目標方向を向く。つまり、それだけ積極的に下半身を使っている。ダウンスイングで地面を「グッ」と踏み込んで、その反動で上半身の回転を高める「反力」を利用した動きだ。

 その足の踏み込みの感覚を研ぎ澄ませるために、裸足でのトレーニングをしているというわけだ。プレッシャーマットで地面方向への力の大きさを計って分析はするが、修正をする方法はコーチの経験から出てくるアイデア次第。アンダーソンは、デジタルとアナログのバランスが取れたコーチなのである。

 そんなアンダーソンの指導の裏側を見たく、時間をもらって私自身がレッスンを受けてみた。最初にトラックマンで弾道を計測。次にプレッシャーマットで地面方向への力を測る。初見のスイング分析は、やはり「数値化するのが効率的」とのこと。そこから少しの間数値とにらめっこし、私が受けたのは「ドライバーのアタックアングルが少し急角度になっているのでもう少し緩やかな軌道でボールをとらえてみよう」というアドバイスだ。その状態を改善するためにアドレスをやや右に傾けアッパー気味の軌道をイメージしてみるようにアドバイスを受ける。その結果、適切なスピン量と打ちだし角度になった。


アンダーソン氏(左)に指導を受ける筆者
アンダーソン氏(左)に指導を受ける筆者

 インタビューとレッスンを受けた後にアンダーソンは「一番大事なことは」と前置きをして教えてくれた。

 「ゴルフはボールを中心にして考えなければなりません。より遠くへ飛ばしたいのなら、もっとスピードを出せるようなスイングをすればいいし、高い球を打ちたいなら、スピン量が多くなるようなスイングをすればいい。結局、すべてはボールの挙動なのです。試合で勝つのはスイングが美しい選手ではなく、ボールをもっとも上手に打てる人ですから」

 細かい「やり方」ではなく、大きなゴールまでの「伴走役」としてティーチングをするアンダーソン。

 全米屈指の難コースを拠点に、アンダーソンの活躍の場はさらに広がっていくだろう。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)