毎年1月下旬になると、米フロリダ州のオーランドで世界最大のゴルフ見本市「PGAショー」が開かれる。私も毎年必ず足を運んでいるが、やはりアメリカはスケールが大きい。広大なコンベンションセンター内に、クラブやウエア、練習器具、アクセサリーとさまざまなゴルフ関連製品のブースが並んでいる。


世界最大のゴルフ見本市「PGAショー」
世界最大のゴルフ見本市「PGAショー」

■様変わりするティーチング機器のプロモーション

初日にオレンジカウンティ・ナショナル・ゴルフクラブの練習場で行われる試打会は、スケールの大きさを表す象徴的なものだ。中央に打球を飛ばすドーナツ型の練習場なのだが、直径が600メートルほどあるので、どんなパワーヒッターも対面の打席まで届くことはない。この芝から打てる練習場に、所狭しと各メーカーが新製品の試打クラブを展示し、多くのゴルファーが性能を確かめる。最初に訪れた時には、日本では見たことのないスケールに驚いた。

もちろん屋内展示場の規模も桁違いで、全長1キロほどあるため、延々とブースが続く。端から端まで歩くだけで15分はかかるだろう。


巨大な練習場で試打会
巨大な練習場で試打会

私がPGAショーに行くようになって8年になるが、その間のクラブやボールなどギアの進化はめざましい。毎年各メーカーから新たなテクノロジーが搭載されたギアが発表になり、それらを試すことはPGAショーに訪れる楽しみの一つになっている。

私は仕事柄、ギア以外にもティーチングに関する機器を見て回るようにしているのだが、製品はもちろん、デモンストレーションの方法もずいぶん変わったと感じる。


オープニングセレモニーには多くの人が集まった
オープニングセレモニーには多くの人が集まった

以前なら、有名なコーチやツアープロなどを呼んで製品を売り込むスタイルが多かったのだが、今は無名でもスイングの理論や機器に表示されるデータの意味などを正確に説明できるコーチが機器の活用方法を説明するスタイルになっている。これは、ティーチングがより専門的になっている表れの1つだと思う


■測定結果から処方箋を書くのがコーチ


欧米のゴルフティーチング界では、地面反力を使ったスイングのティーチングが当たり前となっているが、それに合わせてスイング中の地面反力を計測する機器も開発されている。例えば、最新のスイング解析システムはスイング中の重心のバランスや踏み込む圧力、クラブの軌道などを解析し、動画やグラフなどで表示してくれる。


地面反力を計測できる機器を説明
地面反力を計測できる機器を説明

確かにそれらの計測機器はさまざまなデータを数値やグラフなどで示してくれるが、それは現状のスイングの姿を表しているだけだということだ。決して数値やグラフが、問題点を指摘してくれたり改善方法を示してくれたりするわけではない。データを見て診断を下し、改善へと導いてくれるのは、あくまでも人間であるコーチなのだ。


病院での検査に例えるとわかりやすいかもしれない。私たちは血液検査やMRIなどを受け、その数値や画像を見ることができる。しかし、私たちはその結果を見ても、どこがどうなっていて、何が問題なのかはわからない。現象は確認できても何が問題なのかを読み取り、どのような処方をするかは専門家にしかできない。


室内の試打ブース
室内の試打ブース

アマチュアがどんな最新のシステムで自分のフォームを解析しても、わかるのはせいぜい「重心がうまく移動していないな」とか「頭が左右に動いているな」といったことくらいだ。数値を読み解き、スイングのどこに問題があるのか、どこを直せばいいのかまで行うことは、残念ながら素人にはわからない。

だから、検査結果を見て診断を下す医者のように、解析結果をもとに処方箋を書くことができるコーチが必要になるのだ。そして、コーチにはデータからさまざまな情報を読みとるための、高度な知識や分析力が求められる。


各メーカーの充実した室内展示
各メーカーの充実した室内展示

私はかつて腰の激痛と40度の高熱で寝返りもできない状態で入院し、MRIやCTを何度撮っても原因がわからなかったことがある。結局、2週間後にたまたま担当の医師が休みだった時に、他の医師に検査画像から原因を突き止めてもらい、幸いにも回復へ向かうことができた。同じ医師でもレベルの違いがあるということを身に染みて知った。ゴルフティーチングの場合でも、同じものを見ても知識レベルによって見える世界が違うということは一緒だ。


参加できるイベントなども開催されている
参加できるイベントなども開催されている

ティーチング理論が高度化し、測定機器も進化するほど、ティーチングの内容も1人1人の特性にあわせてオーダーメード化していく。これからコーチに求められることは、機器を使いこなせることができるように自らの知識を高めていくことだろう。それは測定機器にAIが搭載され、どんなに進化しても変わらないだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/