欧米のゴルフ指導者たちは、バイオメカニクスを用いて自身のゴルフティーチングを進化させている。

■ゴルフ界の常識となったバイオメカニクス

タイガー・ウッズの復活を支えたクリス・コモは大学院でバイオメカニクスを学び、体に負担をかけずに飛距離の出るスイングをタイガーに指導した。スイングメソッドの垣根を超え、ジョージ・ガンカスが提唱する「GGスイング」や、レッドベターの「Aスイング」でも地面反力などのバイオメカニクスの要素が用いられている。

もはやバイオメカニクスや地面反力は「○○打法」といったメソッドの一つではなく、知っていて当たり前のゴルフティーチングの基礎となっている。


プログラム参加者に指導するE・A・ティシュラー
プログラム参加者に指導するE・A・ティシュラー

欧米では、5年ほど前から注目を集めているバイオメカニクスを用いたスイング理論がある。2016年にティーチャー・オブ・ザ・イヤーに選出されたマイク・アダムスと、米チャンピオンズツアーの昨年の賞金王スコット・マッキャロンを指導するE・A・ティシュラーの2人が提唱しているバイオスイング・ダイナミクスだ。


マイク・アダムスの本拠地で個人的に指導を受ける筆者
マイク・アダムスの本拠地で個人的に指導を受ける筆者

この理論の特徴は、オーダーメードのティーチングだ。骨格や運動パターンをテストし、その人に合ったスイングモデルを判別できるようになっている。バイオメカニクスの要素も取り入れられているので、どのような種類の地面反力を使えばいいのかも判定できる。骨格や体の構造が違えば、タイガー・ウッズと同じフォームでスイングしても同じようには飛ばない。自分の体の傾向を知り、自分に最適なスイングモデルを見つけることは、効率的なスイング構築にとって欠かせない要素なのだ。

■高度な知識が求められるオーダーメードのスイング構築

私は米国・フロリダ州オーランドでバイオスイング・ダイナミクスのプログラムを受講し、認定インストラクターとなった。1日8時間の座学と実技を3日間受講するプログラムを合計2回受講したが、実際のレッスンで用いるために、さらに高度な知識が必要になると感じた。


骨格や体の使い方のタイプを判定する様々なテストがある
骨格や体の使い方のタイプを判定する様々なテストがある

バイオスイング・ダイナミクスのテストを行うことで、何万通りのスイングを判別することができる。タイプを分類し、スイングモデルを決めたところで、そのスイングを構築するスキルを持たなければ意味がない。医学で例えるなら、病気の検査方法を学んでも、実際に病気を治す方法を学ばなければいけないのと一緒だ。実際のティーチングで使うには、多くのスイング理論を学び、スイング構築に関する知識と経験を積み重ねていくことはもちろん、バイオメカニクスに関する更なる知識も必要となる。

ゴルフスイングに関して、並のコーチでは想像もできないほどの勉強をしてきたアダムスやティシュラーは、このスイング理論を使いこなしてスイング構築を行うことができるだろう。しかし、彼らのレベルに近づかなければ、スイングモデルの設計図は手に入れても、手探りでスイング構築をせざるを得ない。


地面反力の出力タイプのテストを行うマイク・アダムス
地面反力の出力タイプのテストを行うマイク・アダムス

バイオスイング・ダイナミクスのような複雑なスイング理論が生まれているのは、プロだけではなくアマチュアのティーチングに対する知識レベルが高まっていることも背景にある。誰でもインターネットで情報を収集できる時代になり、知識だけならプロ顔前のアマチュアもいる。もしかしたらバイオスイング・ダイナミクスについても、一通りの知識を持っているアマチュアもいるかもしれない。そのため、多くのアマチュアが誰にでも当てはまるスイングモデルは存在しないことを理解しており、今まで以上に本質的なティーチングが求められている。その人に合ったスイング構築を行えるコーチに対するニーズが高まっていることが、コーチたちがバイオスイング・ダイナミクスを学ぼうという動機になっている。

何の分野でも言えることだが、「知っている」ことと「使える」ことは似ているようで全く異なるものだ。ますますコーチは多くのスイング理論に関する深い知識が求められるだろう。常に最新の知識を学び、実際に知識を「使える」指導者が求められる時代が到来している。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/