アマチュアゴルファーから「どのスイングメソッドが一番正しいのですか?」と聞かれることがある。人は何事にも数学の方程式のように、世の中には不変の唯一の答えがあると考えがちだ。しかし、私の答えは「絶対的に正しいスイングメソッドというものはない」だ。


■どのスイング理論が一番正しいのか


人はそれぞれ、身体的な特徴である骨格、筋肉量、柔軟性も違うので、自ずと適切なスイングモデルは違ってくる。世界中のさまざまなスイング理論やスイングメソッドで学んできた結果、誰にでも当てはまる、「正しいスイングメソッド」というものはないという結論に至った。ほとんどのスイングメソッドは間違っておらず、その人に合うかどうかが問題だ。特に、見るからに体格が違う欧米人と日本人では、最適なスイングが異なるのは当然だ。スイングに対する考え方、理論やメソッドさえも変わってくる。

私は日本人としては比較的体格が大きいほうだが、欧米の男性ゴルファーに交じると自分が小さくなったような気になる。私と同程度の身長180センチの人はたくさんおり、時には2メートルを超える人から見下ろされることもある。


ドラコン王者のティム・バーク(左)とトレーナーのトレバー・アンダーソン(右)。182センチの筆者が子供に見える
ドラコン王者のティム・バーク(左)とトレーナーのトレバー・アンダーソン(右)。182センチの筆者が子供に見える

米国生まれの特にスポーツ経験のある欧米人男性は、アマチュアゴルファーでも胸板が厚くて背中が盛り上がり腕も太い。そもそもの筋肉量が違う欧米人ゴルファーは、上半身の力だけでボールを遠くへ飛ばしてしまう。いかに飛距離を伸ばすか、頭を悩ませている日本人のアマチュアゴルファーが間近でみれば、きっとうらやましく感じることだろう。

フィジカルに恵まれた欧米人ゴルファーの悩みは、飛距離よりも正確性だ。飛びはするが、曲がってしまうという人が多い。


■欧米人の悩みは飛距離よりも正確性


機械のように正確無比なボールを打つことで知られている、伝説のボールストライカー、モー・ノーマンが行っていた「シングルプレーン・スイング」のメソッドを教えるプログラムに参加した際、ニューヨークからはるばるフロリダまで来たという男性になぜこのプログラムを受講しようと思ったのか尋ねてみた。

「とにかくまっすぐなボールが打ちたいんだ。それがスコアにつながる一番重要なことだからね。飛距離より方向性さ」


シングルプレーン・メソッドを学ぶアマチュア
シングルプレーン・メソッドを学ぶアマチュア

30人以上のアマチュアが3日で約30万円の高額なプログラムに投資し、正確無比なボールを打てるスイングを身につけようとしていた。日本人と欧米人では、スイングに求めるものからして違うのだ。

前出のシングルプレーン・スイングメソッドのように、欧米には正確なボールを打つためのスイングメソッドが多く存在する。

2010年頃に話題になったスイングメソッドにスタック&チルトがある。左一軸打法とも言われ、タイガー・ウッズもスイング改造に取り入れたことがあるので、名前を聞いたことがあるという人も多いだろう。


アンディー・プラマーにスタック&チルトを習う筆者
アンディー・プラマーにスタック&チルトを習う筆者

創始者のアンディ・プラマーとマイク・ベネットによって考案されたスタック&チルトの特徴は、体重移動を行わず、最初から左足に重心を乗せて軸を安定させることだ。右足に体重を乗せないので、アプローチショットのように再現性の高い動きができる。

ただ、体重移動を行わないため、飛距離よりもコントロールを重視したスイングだといえる。右に体重移動せず、スイング中重心が左に位置するため、モーメントアームと呼ばれる重心と作用点の距離が短くなり、てこの原理によって体の回転スピードを上げることが難しくなる。

野球のピッチングで例えると、右から左へ重心を移動させる投球と、左にずっと重心をキープした投球の違いだ。どちらが遠くにボールを投げられるかは明白だろう。


筋肉隆々なアマチュア(右)に教えるジョージ・ガンカス
筋肉隆々なアマチュア(右)に教えるジョージ・ガンカス

また、このところ注目を集めているスイングメソッドにGGスイングがあるが、これも飛距離よりも曲げないことを目指したものだ。考案したジョージ・ガンカスに直接スイングメソッドを教わったが、飛距離は出るが方向性に難がある、筋力的に優れ手足が長く上背がある欧米人にはぴったりのスイングメソッドだと感じた。

スイング中クラブフェースを閉じ、体を主体とした垂直軸の回転による出力でスイングするのが特徴だ。ダウンスイングで下半身をガニ股のように使って、トルクと呼ばれる地面反力を使いながら、フェースを返さずに垂直軸を中心に体を回転させる。フォローにかけてクラブをリリースしないため常に体が先行する。動作としてはおので木を切るようなイメージだ。

クラブをリリースしないので飛距離を出すにはフィジカルの強さが求められるし、体への負担は少なくないが、アスリートには問題はないだろう。実際、ガンカスのもとには多くの大柄な学生やマッチョなアマチュアが習いに来ていた。


ガンカスのもとには190センチ以上の手足の長い学生アマチュアが多く足を運んでいた
ガンカスのもとには190センチ以上の手足の長い学生アマチュアが多く足を運んでいた

このように、欧米のスイングメソッドは飛距離よりも正確性を重視したものが多い。その国に住む人たちにとって有益なスイングを大量生産しやすいように、一つの型である「メソッド」が普及する。アマチュアは目新しいスイングメソッドに飛びつきがちだが、そのメソッドのコンセプトを知り、自分に合っているかどうかを見極めて取り組むといいだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)


◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/