ゴルフというのは、地面のボールを打つという見かけは単純なスポーツだ。しかし、走ったり飛んだり、投げたりといった動きと違って、先端部に面が付いた特殊な形状のヘッドがついた棒を使って、地面にあるボールを打つという行為は日常生活でほとんど行うことはない。しかも、飛んでくるボールを反射的に打ち返すわけではなく、止まっているボールを打つため、毎回同じように打てる再現性の高いフォームを求められる。さらにまっすぐ打つだけではなく、飛距離を出すことまで求められる。

ゴルフスイングは人間の本能で対応することが難しい、不自然な動きと言っていいだろう。そうした高度な動きを上手に行うのがゴルフというスポーツだ。


クォン教授(左から2人目)に教えを受けるクリス・コモ(左端)。クォン教授の右はチェ・ナヨン
クォン教授(左から2人目)に教えを受けるクリス・コモ(左端)。クォン教授の右はチェ・ナヨン

このため選手やコーチたちは、どうすれば常に一定の動きをすることができるのか、さまざまな工夫を凝らし、理論や練習方法を編み出してきた。その工夫の中で生まれてきたスイング分析の指標が「スイングプレーン」だ。スイングプレーンとは、スイング中にクラブが通る際の指標となる、仮想の平面のことだ。


■「一定の動き」の追究で生まれたスイングプレーン


スイングプレーンは現代のティーチングにおいては、だれでも理解している常識といってもいい、クラブの動きを確認する指標として欠かせないものだ。1957年にベン・ホーガンは著書「モダンゴルフ」で、ボールと両肩のあたりを結ぶラインに沿って1枚の平面をイメージし、その平面の下をクラブヘッドが動くように意識すれば、効率的で安定したスイングになると語った。

その後、80年代にビデオカメラが身近なものになると、多くの選手がスイングプレーン上でのスイングの習得に努め、そこからさまざまな理論が派生してきた。


しかし、ゴルフスイングは軌道だけで説明できるものではないし、人間の体はそう単純なものではない。さらに近年は測定機器の進化によって、人の体の動きをより正確に把握できるようになった。

そこで登場したのが「地面反力」を使ったスイングだ。体の骨格や筋肉の構造、力の伝わり方などを研究する「バイオメカニクス(生体力学)」がゴルフティーチングに導入され、そのデータがゴルフスイングの新たな指標となっている。地面反力を計測するレッスン機器が開発され、地面から受ける反力をいかに効率的に使ってスイングするかに主眼が置かれたティーチング理論が続々と生まれている。


■地面反力でスイング理論はさらなる進化を


新しい指標が生まれたというと、何か今までの考え方が一掃され、新しい理論が席巻しているようなイメージを受けるかもしれないが、「地面反力」の場合は少し違う。なぜなら、地面反力は、私たちが日常生活の中で自然に受けている力であり、どんなスポーツでも当たり前に利用しているものだからだ。地面反力を使ったスイングは、今まで使っていた力をより効率的、有効に使おうというものであり、それまでの理論に地面反力の活用という視点を加えれば、より進化させることが可能なのだ。


タイガー・ウッズ(右)を復活に導いたクリス・コモ
タイガー・ウッズ(右)を復活に導いたクリス・コモ

タイガー・ウッズの前コーチのクリス・コモは、バイオメカニクスと地面反力の関係についてヤン・フー・クォン教授から大学院で学び、スイングに取り入れることでトップクラスのコーチとなった。彼は地面反力を使った体に負担をかけずに飛距離を出すスイング構築を行い、タイガー・ウッズを復活へと導いた。

また、ジョージ・ガンカスが提唱し、最近プロからも注目を浴びている「GGスイング」においても、地面反力を用いて垂直軸に対する回転を速めている。

このほか、大御所と言われるような60歳以上の有名コーチも地面反力を取り入れようと熱心に取り組んでいる。

80年代後半から90年代にかけて多くのメジャーチャンピオンを育てたデビッド・レッドベターといえば、ビデオを使ってスイングプレーンをチェックするレッスンスタイルの元祖ともいえる存在だ。

レッドベターアカデミーではバイオメカニクスがゴルフ界に導入され始めた2012年頃から、足で地面を踏み込む力を測定するフォースプレートを導入してスイング研究をしていた。バイオメカニストのJ・Jリベットとともに、地面反力を用いたスイング理論である「Aスイング」を発表し、Aスイングを実践したリディア・コが世界NO・1プレーヤーになることで理論の正当性を証明した。


レッドベター(左)はAスイングでリディア・コ(中央)を世界一に導いた
レッドベター(左)はAスイングでリディア・コ(中央)を世界一に導いた

ヘンリク・ステンソンなど多くの欧州選手を指導するピート・コーウェンも下半身の踏み込みを意識して指導を行っている。コーウェンは独自に編み出した「スパイラル理論」において、ダウンスイングで左下方向に加重することの大切さを熱心に説いている。この動きは地面反力を利用するために欠かせないもので、コーウェンが最新のバイオメカニクスの知識を取り入れて指導している証しだ。

また、60代後半となったジム・マクリーンも、今なお新しい技術や知識を取り入れることに積極的だ。地面反力を測定する機器を用いてスイング研究を行い、自らのスイング理論を進化させている。


下半身の使い方について語るピート・コーウェン
下半身の使い方について語るピート・コーウェン

これまでのティーチングではスイングプレーンを指標として、いかにクラブの動きを適切にし、スイングの再現性を高めるかに腐心してきた。しかし、タイガーがパワーゲームをゴルフ界に持ち込んで以降、正確性だけではなく飛距離が求められるようになり、地面反力が新たなスイング構築の指標となった。

もはや現代のゴルフティーチングにおいて、地面反力は飛距離を出す原動力となるだけではなく、クラブ軌道やスイングの再現性にまで影響を及ぼすスイング構築に欠かせない要素だ。人体の構造を効率的に使うことを追求して生まれた地面反力を用いたスイングは、人間の本能に近づくことができるスイングといえるだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

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