新型コロナ感染症対策で自粛生活が続く中、アマチュア上級者向けに「80を切るためのオンラインセミナー」を無料で実施した。オンラインセミナーは初めての経験だったのだが、多くのアマチュアの生の声に接することができたのは、私にとって大きな収穫だった。


インストラクター向けにバイオメカニクスを指導するヤン・フー・クォン教授
インストラクター向けにバイオメカニクスを指導するヤン・フー・クォン教授

人それぞれいろいろな悩みを抱えているが、その中でも印象的だったのは、どのようなスイングをすればいいのか迷っているアマチュアが多かったことだ。

本や雑誌、ネットには多くのスイング理論が紹介されていて、どれも簡単にできて、すぐに理想のスイングを手に入れられそうな気がする。しかし、そうしたあふれんばかりの情報にのみ込まれて、かえって分からなくなってしまっている人が多いように感じた。

小手先の技術ばかり追い求めていても、決してゴルフは上達しない。今回はスイングを固めるための考え方について説明しよう。


■理論のつぎはぎではスイングが崩れていく


アマチュアといっても、中・上級者ともなるとプロ並みの知識を持っている人も多い。オンラインセミナーでも、シャローイングやGGスイングなどについての質問があり、勉強熱心な人はいるものだと感心した。

しかし、あれもこれもと目新しそうな知識を詰めこみすぎて、かえって混乱してしまっている人もいるように見えた。中には、バックスイングやダウンスイング、インパクトと別の理論を取り入れて、つぎはぎだらけのスイングになっている人もいた。そんないいとこ取りでスイングがよくなるはずがない。

スイングというは、アドレスからフォロースルーまで一連の動きで行うものだ。それぞれの動きが連動しているので、どこかを変えると必ずズレが生じる。1カ所変えれば、3つ動きが変わるのがゴルフスイングだ。どんなにいい動きを取り入れたとしても、一部分だけを変えてしまうと、スイングは崩れていく。何が変わるのかをあらかじめ予想して、副作用が出ないように動作と形を整えていく作業が欠かせない。

たとえば料理をしていて、どんなに新鮮でおいしい素材を組み合わせても、ただ混ぜるだけでおいしくなるとは限らない。「おいしいものとおいしいものを組み合わせれば、もっとおいしくなる」という短絡的な発想ではなく、全体的な味のバランスを考えて調味料や調理方法を考えることが必要だ。それと同じで、どのようなスイングにするのか全体像も決めずに、いくつものスイングの良さそうな部分だけを組み合わせても、良いスイングにはならないのだ。


■枝葉末節ではなく根本を学ぶ


真剣に自分のスイングを固めようと思っているのなら、質の高い学びを得る必要がある。まずはスイング中の体やクラブの動き、地面反力などのバイオメカニクス、体の構造などの基本的なことを勉強しよう。科学的で普遍的なことを学び、基本的な動きを身につければ、新しい考えや理論を正しく理解することもできるし、取り入れることもできる。逆を言うと適切な学びを得て知識を得ることができなければ、混乱するのも当然のことと言える。


オンラインセミナーで指導をするクォン教授
オンラインセミナーで指導をするクォン教授

今回のセミナーではゴルフバイオメカニクスの世界的権威、ヤン・フー・クォン教授に飛距離アップに関するセミナーを行ってもらったが、セミナー冒頭で以下のように語っていた。


「距離を伸ばすためには、何よりもまず理論的にスイングスピードを上げなくてはいけません。もちろんボールを上手くシンプルにインパクトすることも大切です。しかし、まずは理論的なアプローチをしっかり行って取り組むことが重要です」


やみくもに練習することはもちろん、やみくもに情報を得ることも何も生み出さない。科学的な知識を身に付け、理論的な取り組みを行うことで、実現することが難しいとされる飛距離アップですら実現することができるのだ。


クォン教授はアマチュアだけではなく、インストラクター教育にも力を入れている。世界中で1000人以上のインストラクターが「Dr.クォンインストラクタープログラム」を受講し、そのネットワークは世界最大級だ。


「私はゴルフ・インストラクターたちがバイオメカニクスを通じて正しく物事を理解して、より優れた、正しい知識を備えた教師となることを願っています。私が常々念頭に置いているキーワードは『エビデンスのある取り組み』です。インストラクターが知る必要があるのは、『ファクト(事実)』なのです。自分の好みや思いつきまかせのスイングモデルではなく、動かぬ事実が必要なのです。そして事実に忠実であれば、より効果的なレッスンを行って、優れた結果を生み出すことができるでしょう」


研究室にはデシャンボーやマットクーチャーなどPGA選手のサインが多数
研究室にはデシャンボーやマットクーチャーなどPGA選手のサインが多数

クォン教授は研究者として長年バイオメカニクスに関わってきたが、他のスポーツに比べゴルフの指導現場では科学的な事実が無視され、経験や感覚に頼った指導をしていることに大きなショックを受けたそうだ。そのような状況を変えたいという思いをもってインストラクター教育を行っている。

残念ながら、エビデンスに欠け、自らの経験に頼ったレッスンを行っているインストラクターがいることは事実だ。その指導者が動画サイトで情報発信していることは経験の中で正しく感じたことかもしれないが、あなたにとって正しいかどうかはわからない。だから、あなた自身が指導者や情報を見極めるために、エビデンスのある不変の知識を知っておく必要があるのだ。


何事も本質を知れば、物事がクリアに見えてくる。ゴルフスイングの勉強に関しても本質をとらえるようにして、見る目を養ってほしい。そうすればおのずと自分にとって最良のスイングモデルが見つかるだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/