コロナ感染症対策で外出自粛が求められたのを機に、リモートによる会議や授業などが広まったが、私も5月末にアマチュア中上級者を対象に「80を切るためのオンラインセミナー」を開催した。アマチュアゴルファーの疑問や悩みに答えるというQ&A方式で行ってみたのだが、おかげさまでアンケート結果も好評だった。今後も機会を見て、このようなセミナーを開催してみたい。


デビッド・レッドベター(右)と筆者。Aスイングのように型にはめることも、人によっては最良の選択肢となる場合がある
デビッド・レッドベター(右)と筆者。Aスイングのように型にはめることも、人によっては最良の選択肢となる場合がある

アンケート結果を集計してみると、「自分に合ったスイングの見つけ方を知りたい」という悩みが多く記載してあった。確かに世界中にはたくさんのスイング理論がある。「なぜスイングの目的は1つなのに数多くの理論があるのか」と感じ、「いったいどれが正しいのか」と疑問に思うのも当然だ。


■スイングの目的は1つなのに


しかし極論を言えば、この世に正しいスイング理論など存在しない。なぜなら、ゴルファー1人1人、体格も筋力も異なるからだ。存在するのは、1人1人にベストなゴルフスイングであり、すべての人に当てはまるスイング理論はない。だから「自分に合ったスイングを見つけたい」と考えるのは、当然のことなのだ。

では、どうすれば自分にとって最適なスイングを見つけられるのか、その方法を3つ紹介しよう。


8自分にとって最適なスイングを見つける方法は、主に以下の3つだ。


「さまざまなスイングを試して自分に合うものを見つける」

「1つのスイングの型にはめてみる」

「自分に合ったスイングを作ってくれるコーチのもとに行く」


1つめの「さまざまなスイングを試してみる」は、私のやり方だと言えるかもしれない。私も「どのスイング理論が正しいのだろうか?」という疑問を抱えて、これまで世界中を周り約100人の有名コーチの本拠地を訪れ、それぞれのスイング理論を学んできた。勉強会などでレクチャーを受けた数を入れると、200名以上になるだろう。この研究活動で8年間という年月と数千万単位の膨大な経費がかかった。動画などで理論を公開している欧米の指導者もいるが、現場に行って彼らの最も高価なサービスにお金を払わなければ、本当に大事なことは教えてくれない。

このような活動を行って、やっと世の中にあるゴルフスイング理論を網羅し、あらゆる人に最適なスイングを構築するスキルを身につけることができた。アマチュアの場合は、雑誌や書籍、インターネットで情報収集することになると思う。このやり方は時間もお金もかかるし、取捨選択する力も必要になる。


フィル・ミケルソンのコーチ、アンドリュー・ゲットソン(左)に指導を受ける筆者
フィル・ミケルソンのコーチ、アンドリュー・ゲットソン(左)に指導を受ける筆者

2つめの「1つのスイングの型にはめてみる」は1つめのいろいろなスイング理論を試す方法とは全く逆だ。自分に合う方法を見つけるのではなく、自分を型にはめるのだ。とにかく、自分が信じられるもの、自分に合いそうなものを見つけたら、とことんそれに自らを合わせてみる。スイングメソッドは30パーセントの人に当てはまると言われている。もしかしたら、その型が自分に当てはまるかもしれない。

また、何度も反復練習をしたり、トレーニングで体の使い方を工夫すれば、本当は自分に合っていない動きでも馴染んでいく可能性がある。長い年月をかけて繰り返し練習することで、体が徐々に型にはまっていく場合がある。信じる者は救われるという言葉を胸に、愚直に練習することが求められる。


欧米だけではなくアジアで開催される勉強会にも参加。中国で行われたマイク・アダムスの勉強会
欧米だけではなくアジアで開催される勉強会にも参加。中国で行われたマイク・アダムスの勉強会

3つめの「自分の型を作ってくれるコーチのもとに行く」というのが一番簡単そうだが、良いコーチというものはなかなか見つからないものだ。優秀だったり、実績があるコーチは人気が高いので、教わる機会をつくるのが難しい。その人に合ったスイングを提供するためには高度なティーチングスキルが要求されるため、身近にいるコーチにお願いしても自分に最適なスイングを提供してくれるとは限らない。

もし、あなたや家族が外科手術が必要な重い病気にかかった時、経験豊富で優秀な意思に執刀をお願いするだろう。それと同じように、リサーチをしてから勇気をもって知識のあるコーチのもとに足を運んでみるのもいいかもしれない。


■スイング探しの終わりなき旅も


こうしてみると、自分に合ったスイングを見つけるというのは、そう簡単なことではない。「自分のスイング探し」という終わりのない旅を続ける可能性がある。ゴルフ人生は長いようで短い。出口の見えない暗闇をさまよい続けている時間はないのだ。

1つ目の「自分に合うスイングを探す」にしても、世の中には本や雑誌、インターネットの動画などでさまざまな理論や技術、練習法があふれている。特にSNSはだれでも発信できるため、真偽が怪しいものもあるので、アマチュアにとっては取捨選択するだけでも一苦労だろう。

もちろん自分で適切なスイング理論を見つけられる人もいるが、どのような定義で自分に合っているのかを理解していない場合は疑心暗鬼がついてまわる。ゴルフでは好不調の波があるので、不調時にスイングを信じ切れなくなり、結局違う理論に目移りすることがあるのだ。トライ&エラーに負けない根気強さとゴールまでにかかる時間と労力に耐えることが必要になる。

自分自身が信じ切れる理論があれば2つめの「スイングの型にはめる」を行ってもいいだろう。ただ、その場合は、一定期間の辛抱が必要だ。自分の体がスイングの型にはまるまで待つ必要がある。1か月や半年で結果を判断するのではなく、年単位での取り組みが必要になる。その型を提唱しているコーチのもとで指導を受けるのもいいだろう。

3番目に関しては、何人かのコーチをセレクトして、そこから「自分に合ったスイングを作ってくれるコーチ」を絞るというのが現実的なところだろう。じっくり話をして、自分のスイング構築プランの説明を受けるといいだろう。スイング構築の過程をどれほど詳細に言語化してプランニングできるかで、そのコーチの知識レベルを判断することができる。


型にはめずに、最適なスイングを構築できるコーチ、クリス・コモ。タイガーの前コーチ、デシャンボーのコーチとしてタイプの違う選手を指導できる
型にはめずに、最適なスイングを構築できるコーチ、クリス・コモ。タイガーの前コーチ、デシャンボーのコーチとしてタイプの違う選手を指導できる

いずれの方法を選択しても、自分自身も知識を身につけ、見分ける目が必要になる。適切な知識さえ身につければ、コーチからアドバイスを受けたときに、コーチが言おうとしていることを正確に理解することができるし、さらに突っ込んで質問することもできる。インターネットで流れている理論に惑わされることもなくなるだろう。

本当に役に立つスイング理論には、きちんとデータがあり、科学的な根拠に裏付けられている。それらを理解し、学ぼうとする姿勢を持っていれば、自分に合ったスイングを見つける道は、自ずと開かれていくだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/