米男子ツアーで今季初のメジャー大会となる全米プロ選手権が6日、サンフランシスコのTPCハーディングパークで開幕する。新型コロナウイルスの感染拡大で延期された大会は、無観客試合と少し寂しいが、注目はなんといっても大会3連覇を目指すブルックス・ケプカ。昨年秋に左膝を痛めて以来不調が続いてきたが、ようやく復調の兆しが見えてきた。


全米プロ3連覇を狙うブルックス・ケプカ(AP)
全米プロ3連覇を狙うブルックス・ケプカ(AP)

メジャーで強さを発揮するケプカは、見事3連覇を成し遂げられるだろうか。


■不調からの脱出へコーチと話し合い


ケプカは昨年10月、韓国で開催されたザ・CJカップ at ナインブリッジズで、ぬれたコンクリートに足を滑らせて左膝を痛めてしまった。

膝は今も痛みがあるらしく、その影響か、今季の成績は決して思わしくなかった。しかし、先週行われたWGCフェデックス・セントジュード招待(テネシー州)で初日に62を出して首位となり、最終的には3打差の2位タイでフィニッシュした。「3連覇は厳しいのではないか」との見方もあった全米プロゴルフ選手権への懸念を払拭(ふっしょく)し、3連覇も現実的になってきた。

この復活は優秀なブレーンたちによるものだという。スイングコーチのクロード・ハーモンIII、ショートゲームコーチのピート・コーウェンらに技術的なチェックを受けた。

また、トミー・フリートウッドやジャスティン・ローズも教えるパッティングコーチの第一人者、フィル・ケニオンに「僕のパッティングをどうにかしてほしい」とアドバイスを求めたそうだ。


ジャスティン・ローズなど一流選手を多く指導するケニオン(左)
ジャスティン・ローズなど一流選手を多く指導するケニオン(左)

その結果、コーチ陣にいくつかの問題を指摘され、修正したケプカはWGCフェデックス・セントジュード招待初日にストロークスゲインド・パッティングは3.06で全体4位となり今季のベストパフォーマンスを発揮した。


■専門家へ素直に意見を求める強さ


不調に陥ったとき、どのように脱出するのか。その方法は、選手によってさまざまだ。ひたすらボールを打って感覚を取り戻す選手もいるし、いろいろなコーチに話を聞いて回る選手もいる。

ケプカはクロード・ハーモンIIIやピート・コーウェンといった長年付き合いのあるコーチと話し合い、徹底的にチェックを受ける方法を選択した。スイングを適切に修正するためには、今までのスイングの変遷を頭に入れたうえで現状を観察する必要がある。好調時と不調時の変化、今までのスイング構築の過程、もともと持っている動きの癖などを踏まえたうえで改善策を練る必要がある。ケプカはスイングとショートゲームに関しては自分の好不調両方を知る、かかりつけ医に意見を聞き修正したのだろう。

ケニオンにパッティングのアドバイスを求めたことについては、「著名なコーチにわらをもつかむ思いで助けを求めた」という見方があるようだが、私は少し違うと思う。

ケプカにはジェフ・ピアースというパッティングコーチがいるが、従来の取り組みではパッティングの不調の原因がつかめないので、これまでとは別の角度からアドバイスを求めたのだと思う。

ケプカは度々複数のコーチに意見を求めている。今年3月にフロリダからわざわざラスベガスまで出向いてクロード・ハーモンIIIの父、ブッチ・ハーモンに指導を受けている。元々ケプカはブッチとハーモンIIIの2人に指導を受けていたが、不調の原因を探るため、ツアーを引退していたブッチにセカンド・オピニオンを受け、新たな視点を得ようとしたのだろう。

ケニオンはピアースとはタイプの違うパッティングコーチで、ロジカルなティーチングに定評がある。パッティングストロークの現状分析をしてもらうには最適な人選だと思う。


■「かかりつけ医」と使い分け


ゴルフコーチというのは、不調の原因を探る医師のようなものだ。どんなに有能な医師でも、患者が病気を治したいと思わなければ治療はできない。患者が自らを改善するために、話を聞きたいという姿勢を見せることがすべての始まりとなる。しかし、人の話を素直に、謙虚に、偏見を持たずに聞くということは、簡単そうでなかなかできないものだ。実績があればあるほど難しくなる。

だがケプカは優秀なコーチを集め、素直に彼らの話に耳を傾け、最善の策を実行することでメジャートーナメントで結果を出してきた。状況によって、長年の付き合いのあるかかりつけ医と、セカンド・オピニオンを使い分けて現状分析できることこそが、ケプカの強さの源泉だと思う。

タイガーやミケルソンも壁にぶつかったときに、1人で試行錯誤をしなかった。優秀な人材を見つけ、彼らの話に耳を傾けて自らの殻を破ってきた。

彼らのように複数のメジャーを制するためには、優れた人物の話に耳を傾ける「素直力」が必要になる。優秀なブレーンを使いこなすケプカの3連覇の可能性は大いにあるのではないかと思っている。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)


フィル・ケニオン(左)のティーチング資格ハロルドスウォッシュを受講した筆者
フィル・ケニオン(左)のティーチング資格ハロルドスウォッシュを受講した筆者

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/