「こんなにいい選手なんだ、と。身長は165センチくらいだと思いますけど、思い切りが良くて、どのショットもスイングが緩まない。効率よくボールを飛ばしている。低い球で距離感を合わせるのもうまい」

 15年の日本シリーズJT杯。大会を制した石川遼が、第1ラウンドで同組となった選手を絶賛していた。当時23歳、ツアー未勝利の今平周吾(24=レオパレスリゾートグアム)。石川にとっては1つ年下にあたり、ジュニア時代は競い合ったこともある。シーズンの優勝者と賞金ランク上位者だけが出られる最終戦は初めての出場だったが、確かなインパクトを残した。

 その今平が、5月の関西オープンで初優勝を飾った。4日間で1度も首位を譲らない完全優勝での初Vは、日本人としては09年日本プロを制した池田勇太以来のことだった。

 快挙の土台には、積み重ねてきた苦い経験がある。最初は首位タイで最終日に臨んだ14年カシオ・ワールドオープン。6番でダブルボギーをたたくなど崩れ、22位に終わった。「あの時は経験もないですし、精神的に18ホールもたなかった」と振り返る。

 15年長嶋茂雄招待セガサミー杯では、首位と2打差だった最終日の18番パー5。2オンを狙わず、第2打をレイアップしてバーディーを奪い、単独2位で初の賞金シードを確定させた。「ボールがラフに沈んでいて、2オンは難しかった。シードのためにも単独2位が必要だった」という苦渋の選択は、「プロ失格」という一部の心ない声にもさらされた。

 昨年ミズノ・オープンでは2度目の最終日最終組。コンスタントに上位へ顔を出し続けながら、あと1歩が届かなかった。

 「緊張すると手先で変な動きが出て、ショットが曲がることがあった」。勝負どころで出る手痛いミスに悩むと同時に気付いたこともあった。「優勝争いは緊張する。そこは、みんな一緒なんだと思えるようになりました」。日本ツアーの若手に限れば、恐らく誰よりも優勝争いの場数を踏んできた。その分だけ、自分と同じ状況で歯を食いしばりながらプレーする多くの選手を見てきた。だからこそ、より強く実感できた。

 「それからは『緊張しないように』と思わず『緊張した中でどうプレーするか』を考えるようになりました」。思考の切り替えは、メンタルに大きな変化をもたらした。最終日を単独首位で迎えるのは関西オープンが初めてだったが、2位に6打差をつけて逃げ切った。

 後日談がある。「中嶋(常幸)さんは『オレは緊張しなくなったらやめる』って言っていたことがあったよ」。歓喜から数日後、かつての今平と同じように、優勝争いの緊張をどうコントロールするか悩む選手にかけたレジェンドのひと言を関係者から伝え聞いた。「やっぱり、そうですよね」。何度もうなずいた。誰でも緊張するし、緊張そのものは悪いことではない。ストンと胸に落ちた。

 今季平均ストロークはツアーNO・1。若手のホープとして名前を挙げられて久しかった男が殻を破りつつある。初の全米オープン(15日開幕、ウィスコンシン州エリンヒルズ)も目前に迫ってきた。初優勝の翌週、ミズノ・オープンでも上位で戦う今平のプレーを解説者として見つめていた田中秀道は言った。「彼がうまいのは、みんな分かっているんです」。勝ち星を重ね「うまい選手」から「強い選手」へ-。さらなる本格化へ期待を抱かせる24歳だ。【亀山泰宏】