運がなかった-。

 そんなひと言では片付けられないほど、井上沙紀(21)は複雑な感情を抱いていた。

 後悔とも違う。ぶつけどころのない怒りで胸が締め付けられ、涙がこぼれそうになった。

 7月6日に兵庫・北六甲カントリー倶楽部(CC)東コース(C)で予定されていた国内女子ゴルフのステップアップツアー、ECCレディース(日刊スポーツ後援)最終日のこと。西日本を襲った豪雨で2日連続の中止となり、震災を除けば88年のツアー制度施行後初の競技不成立になった。第1ラウンド(R)終了時点で出場108人中、唯一のアンダーパーとなる1アンダーで単独首位に立っていた井上の記録は取り消され、プロ初優勝は幻になった。

 どうしても勝ちたかった。

 いや、勝たなければいけなかった、と言う方が正しいかも知れない。

 16、17年と単年登録でレギュラーツアーに参戦も、プロテストは2年連続で不合格になった。井上は「何年もショットが悪くて。パーが精いっぱいのゴルフでした」という。3度目の挑戦となった今季もまた、6月の2次予選で敗退。自信を失い、絶望のふちに立たされた。

 しかし、彼女はかすかな希望にかけた。ステップアップツアーで優勝すれば、事実上の“敗者復活”で、最終プロテスト(24日開幕、兵庫・チェリーヒルズGC)に進むことができる。残された唯一の道を切り開くために挑んだ大会だった。第1Rは暴風雨の悪条件にもかかわらず単独首位で発進し「自分が1歩前進した」と話していた。

 5日の第2Rが中止になると、手を合わせ祈った。

 「どうしても明日、やりたいです。今年がプロテスト3回目で、しかも2次で落ちてしまって…。かなり落ち込んだ。自分で言うのもおかしいですけど、結構、苦労の連続でしたから。風が苦手なのに、昨日(第1R)首位に立てて、久しぶりに自分を褒めたいと思った。この大会が成立しなかったら、辛いです」

 天は無情だった。自然には勝てず、翌6日の最終日も中止。大会は成立せず井上の最終テストへの道は、閉ざされたままになった。

 「どうしても最終プロテストに出たかった。その権利(首位)を持ちながら、こういう結果になってしまったのは悔しい。でもまだ、チャンスは残っているので、この気持ちをぶつけたい」

 最終テスト前の最後の下部ツアーとなるANAプリンセス杯が11日から北海道・早来カントリー倶楽部(CC)北コース(C)で始まる。その舞台で優勝することが、唯一にして最後の道となる。

 「優勝を目指したい。この経験をバネに、来週以降も頑張りたい」

 福岡県生まれ。小学校時代は、ラグビー少年団でスクラムを組むフォワードの選手だったという。身長157センチで、見た目は小柄な女の子だが、井上は「これでも昔は大きかったんですよ」と笑いながら打ち明ける。来年度からはLPGA非会員はQTに出場できなくなるため、国内ツアーに参戦するにはプロテスト合格が必須条件になる。今こそ、ラグビーで培った不屈の闘志を見せて欲しい。

 苦難の先にはきっと、希望の光が、見えるはずだ。【益子浩一】

中止となりインタビューを受ける井上沙紀(撮影・外山鉄司)(2018年7月5日)
中止となりインタビューを受ける井上沙紀(撮影・外山鉄司)(2018年7月5日)