一流のアスリートかどうかは、勝ったときではなく、負けたときにこそ分かると思う。決勝で負けて大号泣した女子柔道選手や、ラグビーワールドカップ(W杯)決勝で敗れ、首にかけられた銀メダルをすぐに外してしまったイングランドの監督や選手たちは、はたしてグッドルーザーと言えるだろうか。

負けて、その場で泣くのは優勝した選手に失礼だと思う。高校野球など、日本のスポーツシーンではよく見られる風景だが。スポーツは、競技する相手への尊敬や競技自体を楽しむことなしに成り立たない。伊藤園レディースで鈴木愛(25=セールスフォース)に競り負けた申ジエ(31=韓国)は「自分は1試合1試合最善を尽くしている。最善を尽くした結果がこれでは仕方ない。私も最善を尽くしたが、3週連続優勝した鈴木選手も最善を尽くした。結果がそうなったのだから、受け入れるしかない」と淡々と話していた。

7月のサマンサタバサ・レディースでは、最終日に首位から出て小祝さくら(21=ニトリ)に逆転され優勝を逃したイ・ミニョン(27=韓国)が「競った試合で、人生で一番楽しいプレーができた。小祝さんはいつ優勝してもおかしくなかったので、いつも応援していた。やっと優勝しましたね。自分は最善をつくしたので悔いはない。おめでとうございます」とコメントした。申もイも敗北を受け入れ、相手をたたえ、何よりも優勝争いをしたことを楽しんでいた。

最終戦を残し賞金ランク2位の申は、初の日本での賞金女王を最大の目標にしている。韓国、米国ですでに賞金女王となった申にとっては、日本の賞金女王は悲願だ。しかし、試合で結果を求めるだけではなく、オフのベトナム合宿では金沢志奈らの若手の参加を受け入れ、指導もしている。日韓ジュニアゴルファーの育成と親睦を兼ねた大会の開催している。ただ賞金を稼ぐだけではなく、日本ツアーや日韓の次世代のことも考えているのだ。真のアスリートのお手本が日本でプレーしている。

黄金世代など、次々に若手が育っている日本だが、アスリートの心は技術と同じように育っているだろうか。アスリートとしてだけではなく人間として、相手に言ってはいけない暴言を吐いて処分された選手がいた。女子ゴルフ界だけでなく、日本のスポーツ界が、もう1度足元を見つめ直すときが来ているように思う。ただ東京オリンピック(五輪)に浮かれているだけでは、メダル、メダルと騒ぐだけでは、日本のスポーツに未来はない。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)