稲見萌寧(22=都築電気)の勢いが止まらない。12日まで茨城・静ヒルズCCで行われた、日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯で国内メジャー初優勝。今季8勝目を飾った。03年の不動裕理に次ぐ、史上2人目のシーズン10勝の大台も射程圏に入った。今季は残り11試合。新記録樹立も見えてきた。ただ、03年の不動と今季の稲見を、一概に比較できない側面がある。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年は14試合しか行われなかった。その関係で、今季は昨年の14試合と今年の38試合を統合し、歴代最多の全52試合で争われている。稲見が8勝目を挙げたのは41試合目。うち昨年は1勝なので、今年に限れば27試合目で7勝目となった。今季は5・13試合に1勝、今年は3・86試合に1勝のハイペース。だが実は、03年の不動はそれを超える驚異的なペースで優勝していた。シーズン30試合で10勝。3試合に1勝ペースで勝ちまくっていた。

30試合のうち不動が出場したのは24試合だったが、休養を挟んだことでパフォーマンスが上がった可能性もある。それは考慮にいれないが「3試合に1勝」ペースを稲見が上回るには、残り11試合でシーズン平均なら10勝の上積みが必要。極めて難しいが、今年の平均なら6勝の上積みで逆転と現実味が増す。ただ、それでも残り11試合を、2試合に1勝以上のペースで勝ち続ける必要がある。つまり、これだけ勝ちまくっている印象のある稲見以上に、03年の不動は勝ち続けていたことになる。

日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯の最終日に、稲見と同組で回り3位となった44歳の大山志保は、両者を比較した印象を問われ「2人とも全然タイプが違う。比べることはできないけど、2人とも圧倒的な強さがある」と答えた。03年にはレギュラーツアー初優勝を飾るなど、すでにトップ選手の仲間入りを果たしていたが、当時の不動、そして今の稲見の勝負強さに舌を巻いていた。

日米のプロ野球などでもそうだが、偉大な記録の更新が近づいた時、もともとの記録を持っていた選手にもスポットが当たる。シーズン10勝という、誰も超えられないように思われた記録に稲見が挑んでいるからこそ、あらためて全盛期の不動の強さ、偉大さがクローズアップされる。

不動は11年を最後に優勝から遠ざかっているが、現在までに通算50勝。通算9勝の稲見が、将来的にこの記録にも迫ることになるのか。圧倒的な強さで一時代を築いた不動がたどった道を、稲見が追いかけていく壮大な物語の、今はまだ途中なのかもしれない。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)