「そりゃ、ため息も出ますよね」。渋野日向子(23=サントリー)に言われた言葉だ。誰よりも、当の本人がため息をつきたい状況だった。今季のメジャー初戦、米女子ゴルフツアーのシェブロン選手権第3日のホールアウト後。単独首位から出て「77」と大崩れした渋野は、21位に後退していた。最終的に優勝することになる、この日首位に立ったジェニファー・カップチョ(米国)とは、この時点で12打もの大差をつけられた。日本人初のメジャー2勝目が事実上、消滅した直後だった。

ホールアウト後、中継したWOWOWのインタビュー、ペン記者の囲み取材に続き、最後の取材対応となったLPGA(米女子ツアー)ジャパンの動画撮影を終えた時の出来事だ。撮影しているすぐ隣でメモを取っていたため、動画に音が入り込まないよう、無意識に息を潜めていたのかもしれない。撮影が終わった瞬間、「はぁ-」と、息を吐き出してしまった。そこですかさず、冒頭の言葉を掛けられた。

この行動は、1歩間違えば「あなたのプレーに失望しました」と思っていると、受け取られかねない。もちろん、そんなつもりはない。たまたま、なぜか息を止めてしまっていて、それを吐き出しただけ。ただ、大崩れしてイライラしてしまいがちな状況では、そういった行動に敏感にもなるのも当然だろう。

こういうことから、取材対象と報道関係者との溝が生まれる。痛恨のミスをした自分に、渋野はこうも付け加えた。「私もため息しか出ないですよ。はははっ」。大きなショックが残る状況で、実際にはため息を出さないどころか、私のミスを笑いに変えてくれた。思えば、最終ラウンドで巻き返し、最終的に4位で終えられたのは、すでにこの時から気持ちを切り替え始めていたからなのだろう。20代前半にして、なかなかこんな対応はできない。

今季から米女子ツアーに本格参戦してからは、シェブロン選手権が初めての取材だった。ただ、すでに渋野は、LPGAスタッフの心をわしづかみにしていることが分かった。好成績を挙げてLPGAの公式インタビューに呼ばれると、広報スタッフが何人も集まって次々に質問する。そして、しぶこ節に大爆笑。広報も渋野に質問したくて、話がしたくて仕方ないことが分かった。好成績でホールアウトすると、スコアカード提出の場に、選手、関係者らが集まって祝福。とにかく「愛されキャラ」であることが一目瞭然だった。

全ては、相手のことを気遣う渋野の人柄によるのだろう。今は英語を自由に話すことはできないが、人柄は国境や言葉の壁を越えて伝わる。自分のミスが発端だったが、米国に行って、以前にも増して開放的で、明るい渋野を見た気がした。そして、この愛され方から、近い将来、LPGAを代表する人気者になる-。予感ではなく、確信めいたものを感じた。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)