「オレは夢を持ってプレーしたことがない。若い子は、夢を忘れずにとか、金メダルとかメジャーで戦いたいというが、オレは違う。とにかく目の前のことを1年1年。それの積み重ねだった」

こう語るのは、日本プロゴルフ殿堂入りを果たし、3月に顕彰式に参加した尾崎直道(65)だ。ジャンボ尾崎、尾崎健夫を兄に持つ、尾崎3兄弟の末弟。77年にプロ入りし、84年に初優勝してから32勝。永久シードを持つ7人の1人というレジェンドだ。

偉大な兄の後を追ってプロ入りしたが、当初は劣等感のかたまりだった。

「オレの方がよっぽどプロゴルファーには不向き。あがり症で、優勝争いをするとメンタルが弱い。欠点ばっかりだった」と話す。

そんな尾崎直道が、どうしてプロで32勝もできたのか。

そんな質問をぶつけると「自分の欠点に対して、自分を叱咤(しった)激励して、どうすればいいのか。ヘタな部分を前向きにとらえて克服してきた。欠点も試合に出れば出るだけ、比較して分かってくる。現実問題として、何が足りないのかが分かっている。分かったら、そこに立ち向かっていく」という地道な努力を積み上げてきた結果だと強調した。

それが冒頭の「夢を持ってプレーしたことがない」につながるのだろう。

プロデビューから初勝利まで7年かかった。この7年に現実と向き合い、自分の逆転を克服し、前の試合でできなかったことが、次の試合でできるようになるという経験を飛躍への養分としてきた。

「勝ち始めたら少しずつ自信がついてきた。ちょっとした自信の繰り返し。昔は35歳が一番いい体の状態になると勝手に信じてやっていた」と明かした。

自分の成長を確かめながら、ツアーで勝ち、賞金王も獲得し、米ツアーにも挑戦した。

アスリートの成長は、人それぞれだが、成功するものは誰もがぶれない、太い芯のようなものを持っていると思う。尾崎直道も、ジャンボ尾崎や尾崎健夫といった兄たちの背中を追いかけたから、自分の立ち位置を明確に自覚し、努力を怠らなかったのだろう。

自分なりの発想で結果をつかみ取った尾崎直道に、女子プロで活躍するジャンボ尾崎門下生と、ジャンボの教えについて聞いてみた。

「ジャンボが見ていいと思う選手をスカウトして、練習場を与える。若い子に心技体を鍛える場所を与え、スポーツマンとしての生き方を教える。なおかつ(練習する姿を)後ろでジャンボがじっと見詰めている。だから強くなるんだ」【桝田朗】