女子ゴルフで昨季賞金女王、歴代2位のシーズン9勝を挙げた稲見萌寧(22)が“無敵の女王”へと走りだす。練習拠点の千葉市・北谷津ゴルフガーデンで、30日までにインタビューに応じた。新トレーナーを迎え、ダイキン・オーキッド・レディース(3月3日開幕、沖縄)から始まる今季は、昨季苦しんだ腰痛を克服するなど、万全の態勢で臨めることなどを明かした。前人未到のシーズン通算パーオン率80%超え、強いまま引退、など将来的な目標や夢も初めて語った。

【取材・構成=高田文太、近藤由美子、松尾幸之介】

   ◇   ◇   ◇

今季の稲見は、死角がない。賞金女王争い大詰めだった昨季終盤、最も苦しめられた腰痛への不安は、今オフに解消された。今月、素性を隠して父親が予約した千葉市内の接骨院で、沢木弘之氏(45)と出会った。

稲見 「去年、初めて歩けなくなるぐらいの腰のケガをした。初期対応を、ちょっと間違えたのがずっと心残りだった。ちゃんと最後までやり切れていたら、いろいろ違うタイトルも取れていたので、すごくもったいないことをしたなと。でも今年は心機一転、新しいトレーナーさんと出会えた。今まで(体のケアを)受けた中で一番うまい。毎日通うようになったら、何年も悩んでいた首のコリとか柔軟性とか、1週間ぐらいで半分は治った。ダメもとで『今年からお願いできますか』とオファーしたら『お願いします』と言ってもらえた」。

もともと1日10時間にも及ぶ練習の虫だ。だが昨年12月からのオフは現在まで「30~40%しかできていない」と練習量が激減。目いっぱい練習する日常が、シーズン終了後も続いた腰痛の影響で奪われ「めちゃくちゃストレス。体調が悪い時でも1個しかできなかった、顔のニキビが同時に3個できた」と苦笑いする。

稲見 「体重はオフのピークと同じだけど、重たいものを持てず大きい筋肉がついていない。で、体重が一緒ということは、違うお肉が大きくなっているのかな(笑い)。2月に追い込んでこのお肉を筋肉に変えて、海外モデルみたいに引き締まった体にしたい」。

沢木氏には、2月からの通常練習再開に太鼓判を押されている。柔軟性も増し、特に上半身の可動域が広くなることで、ショットの安定感が増すのは明白。それだけに目指したい数字がある。19年に稲見がマークした、歴代最高78・2079%というシーズン通算パーオン率を更新することだ。

稲見 「引退する時にずっと1位を死守できる記録がほしい。パーオン率は19年が一番良くて、誰かに抜かれることは絶対阻止したい。塗り替えるなら私。誰にも邪魔されたくない。究極は80%を超えたい」。

一方で同じく昨季ツアー1位だった、90・3239%というパーセーブ率については、全く興味を示さなかった。

稲見 「私からしたら、パーセーブとか、そういうのはやりたくない。もう全部(グリーンに)乗せて、バーディーパットが入るか、入らないかの世界にしたいので」。

“負けず嫌い”が多いプロゴルフ界にあって、稲見は屈指の存在だ。今季は現時点で38試合予定だが「毎週、負けたくない」と語った。

年間を通じてクラブを変えないことでも知られている。今季はシーズン突入前に、入念に新作クラブなどを試す予定だという。

稲見 「基本、今使っているクラブを100%超えない限り替えない。ウエッジ、パターは今のところ、いじるつもりはない。新作とかは1回は試させてもらっている。アイアンはまだだけど、ウッド系はやっている最中」。

テーラーメイド社の新作ドライバーを含む「ステルス」シリーズなどの試打にも、着手し始めていた。

昨季は東京五輪での銀メダルを獲得した。さらに賞金女王争いの先頭を走っていたことで、飛躍的に知名度も上がった。

稲見 「帽子をしてマスクをして、ゴルフウエアじゃないのに『なんで?』っていうぐらい気付かれるようになった。外で友だちとしゃべるのに、気まずくなったことも。体形が一般人じゃないからバレるのかな? 悪いことしているわけじゃないから普通にしていればいいけど、やっぱり見られることが増えて、前みたいに何も考えず好き勝手話せなくなった。隠れてパシャパシャ撮られることもある。あと、いきなり何も言わず目の前でパシャって撮られたことも…。さすがにそれは、ということもあったかな」。

ゴルフだけに集中できていた、以前の生活とは変わった。日本一のプロゴルファーとなった宿命と考える一方で、まだ1度しか日本一になっていないという考えもある。まだ道半ばという思いの方が、稲見にとっては強いようだ。

稲見 「日本で1番になったといっても昨季だけ。小中学生の時から目標は永久シード。(通算30勝で)資格を取ったらすぐやめます。できれば(笑い)。みんなと一緒は嫌だから」。

永久シードを取って40、50代でツアーに出場することは「ない」と断言する。強いまま引退-。その先は「ジュニアの育成をやりたい」と明確だ。プレーオフ4戦全勝など、目標が明確となった時の強さを、今後も見ることになりそうだ。

 

◆パーオン率とは グリーンを狙うショットの正確さを示す数値。パー5なら3打以内、同4なら2打以内、同3なら1打目のショットが対象となる。

◆昨季の稲見 新型コロナウイルス感染拡大の影響で20、21年が統合され、史上最多52試合で争われ、稲見は20年1勝、21年8勝の計9勝を挙げた。シーズン9勝は、03年不動裕理の10勝に次ぐ歴代2位。出場45試合で、1シーズンとしては歴代最高の2億5519万2049円を獲得し賞金女王に輝いた。ただし終盤は腰痛が悪化し、21年10月の延田グループ・マスターズGCレディースは、10位で予選通過後に棄権し賞金ゼロ。翌週の樋口久子・三菱電機レディースは欠場で賞金女王争いは混戦となった。最終戦で9位に入り、シーズン6勝の古江彩佳を振り切った。パーオン率は歴代最高だった19年の78・2079%には及ばなかったが、75・7688%で2シーズン連続1位。平均ストロークは日本人歴代最少の70・0514。他にもパーセーブ率が90・3239、平均バーディー数が3・7343で1位だった。

◆稲見萌寧(いなみ・もね)1999年(平11)7月29日、東京・豊島区生まれ。9歳でゴルフを始め、12年関東小学生選手権、14年関東中学生選手権、15年東日本パブリックアマ優勝。ツアーは15歳で出場した15年中京テレビ・ブリヂストン10位、16年三洋電機レディース8位。18年プロテストに高卒で1発合格。19年はセンチュリー21レディースでツアー初優勝するなど、賞金ランキング13位。20-21年は9勝を挙げ賞金女王。現在、日本ウェルネススポーツ大4年。家族は両親。166センチ、58キロ。