香妻陣一朗(27=国際スポーツ振興協会)が桂川有人(23)とのプレーオフを制し、20年11月三井住友VISA太平洋以来のツアー2勝目を挙げた。5打差リードで首位ターンしたイン終盤で逆転を許したが、17、18番の連続バーディーで通算14アンダーに追いつき、プレーオフ1ホールもバーディー。土壇場の3連続バーディーで、劇的な再逆転を決めた。

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外せば負けの最終18番、香妻が6メートルをねじ込み、右拳を握りしめた。桂川とのプレーオフ1ホール目も同じ18番、桂川が8メートルのバーディーパットを外した後、今度は7メートルの上りフックラインをねじ込み、雄たけびを上げた。

「2つとも本当に気持ちで入れました」。

苦闘の2勝目だった。単独首位でスタートし、5番で102ヤードの第2打を58度のウエッジで放り込むショットイン・イーグルを決めた。ハーフターン時は後続に5打差をつけていた。ところが、13、16番のボギーで、1組前で猛追する桂川にトップを譲った。「13番で優勝を意識したとたんに手が動かなくなった。桂川君が来ているのがわかったし“このままだと負ける”と思った」という。

最悪の流れに思った。「“1打負けてるな”と。18番ティーでは“ワンチャン、並べないか…いや、ないよな”と。でも、思えば17番(パー5)の第1打が今週、1番気持ち良く振れたんです」。連日「不調」とこぼしていたショットが、特にひどかったドライバーが当たった。ピンまで残り210ヤードのフェアウエーに運び、5番アイアンでグリーン右前エッジへ。アプローチを寄せ、タップインのバーディーを奪い、土壇場の大逆襲は始まった。

初優勝は、最終18番のイーグルで決めた。「あの時は“勝てたんだ。うれしい”でした」。2勝目は違う。成長を感じる確かな根拠はない。ただ、素振り2回、アドレスで両足を足踏みし、迷わず打つ。絶不調のショットで、ミスしてもリズム、テンポは決して変えずに回りきった。

「こんなに苦しい中で勝てたのが、すごくうれしい。自信になった。これからのゴルフ人生で、調子の悪いときでも勝てるって考えられる」。築き上げたゴルフを信じて、逆境に打ち勝った。今季の目標「複数回優勝&メジャー挑戦」へ。165センチの小さな実力者が、確かな歩みを見せた。【加藤裕一】

◆香妻陣一朗(こうづま・じんいちろう)1994年(平6)7月7日、鹿児島県生まれ。父の影響でゴルフは2歳から。横峯さくらの父良郎氏主宰の「めだかクラブ」に入り、中学2年で宮崎・日章学園へ。同高3年の12年に日本アマ3位、世界アマ代表。同年11月にプロ宣言。16年9月に下部ツアーV、同年に初シード奪取。20年三井住友VISA太平洋でツアー初優勝し、女子プロ姉琴乃と史上3組目の男女きょうだいツアー制覇を達成。165センチ、71キロ。