プロ2年目、ツアー本格参戦1年目の岩井千怜(ちさと、20=Honda)が、02年度生まれで一番乗りとなる初優勝を飾った。首位タイから出て5バーディー、2ボギーの69と3つ伸ばして回り、通算13アンダー、203。同じく首位タイから出た吉本ひかるら1打差2位の6人を振り切った。昨年6月、双子の姉・明愛(あきえ)とともにプロテスト合格。双子がそろってプロという、史上4組目の姉妹となった。過去3組は優勝した例はなく、双子姉妹プロによる初の優勝となった。

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優勝のお膳立ては整えられていた。2位に2打差で18番パー4を迎えた岩井千は2オンに成功。同組の堀と吉本は先に、パーでホールアウトしていた。残すは7メートルのバーディーパットからの自身のプレーだけだった。3打以内で優勝の状況で、最初のパットをオーバー。続く2メートル弱のパーパットも外し、口を覆って「やっちゃった」の表情。直後に短いボギーパットを沈めると、涙があふれた。キャディーとハグし、両手を突き上げ「ヤッター」と叫んだ。目まぐるしく表情が変わる初々しい優勝だった。

グリーン脇で双子の姉明愛が待っていた。抱き合うと、また涙があふれた。

岩井千 「最後は2パットで上がりたかったけど、やっぱり緊張で外した。気持ち良く上がれなかったけど、すごくうれしかった。(姉は)負けないように、もっと頑張ろうと思わせてくれる存在。これからも2人で頑張っていきたい」。

父雄士さん(49)が双子について「楽しみは2倍」という。互いが活躍すれば喜びは2倍。20年の日本女子オープンで姉がローアマを獲得すれば、「同じ練習をやってきた。自分もできるはず」と喜ぶだけでなく発奮材料にもした。年間を通じてシーズンを戦うのは2人とも初めてだが、人一倍、経験を積んだ格好だ。

もともとは「姉は攻撃的で、私は慎重」と、ゴルフのスタイルは違った。だが今季の出場権を懸けた昨年12月の最終予選会で90位。常時レギュラーツアーに出場することはできなくなった。「私はこんなもんじゃない」。そこから攻めのスタイルに変更。この日も16番パー5で果敢に2オンを狙った。終盤で2打差あっても「見ていてワクワクするプレーをしたかった。逃げたくなかった」。02年度生まれで最初の優勝らしく新時代到来を予感させた。

高校3年だった一昨年、コロナ禍でようやく受検可能な年齢となったプロテストは中止となった。それでも「調子が悪かったので、その年にやっていたら落ちていたと思う」と常に前向き。次の目標は「日本女子オープンで勝ちたい」。その先に姉妹で優勝争いも夢見る。注目度は2倍どころか飛躍的に上昇した双子姉妹が、女子ゴルフ界を盛り上げる。【高田文太】

<岩井千怜(いわい・ちさと)>

◆生まれ 2002年(平14)7月5日、埼玉県生まれ。

◆サイズ 162センチ、59キロ。

◆競技歴 8歳から双子の姉明愛とともにゴルフを始める。埼玉栄高では姉とともに全国高校選手権特別大会団体優勝。個人では埼玉県女子アマ3連覇。昨年6月のプロテストで、史上3組目の双子姉妹での同時合格。同年9月、下部のステップアップツアー、カストロール・レディースで優勝。レギュラーツアーのトップ10は、今大会で3戦連続で通算4度目。

◆史上初 双子姉妹プロの優勝はツアーに前例がない。また昨年、ステップアップツアーのカストロール・レディースで優勝した2週間後、同ツアーの次戦で明愛が優勝。レギュラーツアーを含め、初めて姉妹による2戦連続優勝を達成。

◆女子大生 現在は武蔵丘短大2年。特に心理学は興味深く受講し、そこで習った緊張時の深呼吸の効果を実感。この日は「16番のセカンド(ショット)の前と、18番のバーディーパット前の2回深呼吸した」。

◆家族 父雄士さん、母恵美子さんと姉明愛、埼玉栄ゴルフ部3年の弟光太。

▽53位に終わったが妹の優勝に涙を流して喜んだ岩井明愛 感動しました。本当に優勝は夢だったから。一番身近な人が優勝して、本当にすごいと思った。自分も追いつけるように優勝目指して頑張りたい。(優勝は)したいけど、一番は自分のプレーに集中して、結果を気にせずやっていきたい。

 

◆姉妹女子プロ 姉妹ともにプロテストに合格したのは、最も新しく名を連ねた岩井姉妹で18組目。一方がプロテスト合格、もう一方が単年登録というケースも含めると22組目となる。うち双子は岩井姉妹で4組目。他に67年10月2日生まれの本山恵子と裕子、86年9月17日生まれの久保啓子と宣子、86年2月12日生まれの池内絵梨藻と真梨藻の3組がいる。久保姉妹以外の3組は、双子が同時にプロテストに合格している。レギュラーツアーでの姉妹優勝達成は、これまでに福嶋晃子と浩子、堀奈津佳と琴音の2組しかいない。

○…2週間前の国内ツアーから、前週はメジャーのAIG全英女子オープン、今大会と強行日程で臨んだ堀と勝が、そろって2位に入った。最終組で1打差の3位から出た堀は、1番パー4で4メートルのパットを沈めてバーディー発進。首位から出た岩井千と吉本が、ともにパーで早々に首位に並んだ。だが単独首位に立つまでは伸ばせなかった。「疲れてはいるけど気持ちで乗り切った。全英の経験が生きている」と前を向いた。5位から出て5つ伸ばした勝も「すごい楽しめた。来週優勝できるように頑張りたい」と話した。

○…首位タイから出た吉本は、1打及ばずに2位だった。前半で3バーディー、1ボギーと2つ伸ばし、単独首位で折り返した。だが後半9ホールは全てパーと伸ばせず70で回り、後半で2つ伸ばした岩井千に逆転された。98年度生まれ「黄金世代」12人目の初優勝はならず、3度目となった首位で迎える最終日でまたも順位を落とした。それでも3年ぶり3度目の2位となり「やりきったので悔いはない。今回で自信になったし、残り試合でもっともっと優勝争いできるように頑張りたい」と胸を張った。