東北福祉大4年の蝉川泰果(たいが、21)がツアー史上6人目のアマチュア優勝を達成した。アマのツアー新「61」を出した翌日に最終日最終組で首位スタートすると、13番から5連続バーディーを奪取して66。通算22アンダー、266で逃げ切った。同じ最終日最終組で惨敗した4月関西オープンの悔し涙を歓喜の涙に変えて、男子ゴルフに新星が誕生した。

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2打差リードで余裕はあった。最終18番グリーン。蝉川は2メートルのパーパットを引っかけ、外した。イージーミスに帽子を脱ぎ、ギャラリーに頭を下げ、帽子をかぶり直してボギーパットをコロンと決めた。

17番まで圧巻の5連続バーディー。「ゾーンに入っていた」と言う。パーパットの前には「泣きそうになって、もう“優勝や”と思うと…涙をこらえて」。感情が爆発した。大歓声に頭を下げ、スコア提出に向かうと中島が待っていた。

前日に「明日、18番で待ってるから」と言ってくれた友から約束のハグを受け「おめでとう。強かったね」と言われ、涙が止まらなくなった。

5カ月前はつらかった。首位4打差3位、初の最終日最終組だった関西オープンで77を崩れて17位。人目をはばからずに泣いた。

首位スタートのこの日も怖かった。1番パー4のティーグラウンド。拭いても拭いても手汗が止まらない。大学の1年後輩、中村凜キャディーに「アイアン、握っていい?」と聞いて「ダメです」と言われ、ドライバーを握った。左に引っかけ、木に当てた。フェードヒッターには“天敵”の左へのミス…。同時に「覚悟」を決めた。

「僕はビビってしまうと崩れる。場数を踏んで、それがわかっていた」。プロが刻むホールでもドライバーを握った。「61」の前日同様パー3を除く14ホール中、12ホールで振り抜いた。「覚悟」が66を生み、優勝につながった。

タイガー・ウッズの“タイガー・スラム”と呼ばれるメジャー4連勝がマスターズで完結する01年に生まれた「泰果(たいが)」だ。物心ついた時から「プロになる」を思い、今年、関西オープンのV争いで「いけるかな」とプロを本気で考えた。「ツアー優勝したいと思っていたけど、本当に学生で優勝できるとは、想像してなかったです」。ツアー出場過去17戦で予選通過が6度、トップ10はない。

急成長した新星だ。「目標はタイガー・ウッズ。そこは変わりません」。もう名もなき和製タイガーではない。【加藤裕一】

◆蝉川泰果(せみかわ・たいが)2001年(平13)1月11日、兵庫県加東市生まれ。ゴルフはプラスチッククラブで1歳から。兵庫教育大付中1年の13年に下部ツアー出場。興国高から東北福祉大。昨年末にナショナルチーム入り。今年の関西オープンで17位、日本アマ3位、下部ツアーのジャパンクリエイトin福岡雷山優勝、世界アマチュア・チーム選手権団体7位・個人2位。ドライバー平均飛距離は約300ヤード。175センチ、77キロ。

<アマチュア優勝関連の記録>

▼初の同一シーズン“親子V” 蝉川は6月の下部ABEMAツアー・ジャパンクリエイト・チャレンジin福岡雷山で同ツアー史上5人目(当時)のアマチュア優勝を達成。同一年に下部とレギュラーで優勝したのは初。

▼初の同一大会連覇 昨年大会(京都・城陽CC)で中島啓太、今大会で蝉川が優勝。アマチュアのツアー競技2連覇は初。