「開催都市ものがたり」の最終回は東大阪市にある西の聖地「花園ラグビー場」に迫る。ワールドカップ(W杯)に向けて17年2月からの改修を終え、今月26日に日本代表-世界選抜戦のオープニングマッチが行われる。改修工事を担当した清水建設の現場責任者、板井川篤さん(64)は元ラガーマン。新しい花園に特別な思いを込めた。

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板井川さんは19年春、65歳の定年を迎える。青々とした花園の芝を眺め「何かの縁で花園が、最後のお勤めになった。完成してうれしい」と穏やかに笑った。とっておきは近鉄東花園駅から歩くと、まず目に入る「スクラムスクリーン(正面ゲート)」。FWが組むスクラムをモチーフに、生まれ変わった花園の顔を「柱が斜めって、技術的にも難しいんだ」と説明した。

48年前の寒い冬。山口から70年度の第50回全国高校ラグビー大会初出場を決めた萩工(現萩商工)2年の青年は、目をキョロキョロとさせた。「松尾(雄治氏)のうわさは山口まで聞こえとった」。面識はないが、後に日本を背負う同学年のスターも、前年度優勝の目黒(東京)から出場していた。萩工は1回戦で沼津工(静岡)に6-22で完敗。高校からラグビーを始めた板井川さんは「舞い上がって、気付いたら負けていた。でも、芝生のグラウンドが初めてでね…」。第1グラウンドの芝を走った喜びは、深く胸に刻まれた。

FBで主力だった3年時も、第2グラウンドでの初戦で宮城水産に0-22。前半15分を迎えた頃、ボールをセービングした際に相手に後頭部を蹴られた。「雨でドロドロで、田んぼみたいな地面やった」。無念の途中退場を強いられ、入院すると6針を縫った。悔し涙で3年間尽くしたラグビーに別れを告げ、卒業後に清水建設の一員となった。

入社47年目。携わった工事は数え切れない。ここ数年ではユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のハリーポッター、大阪のイオンモール四條畷、福島の原発でも作業を行った。ジャンルは多種多様だが、やりがいを感じる瞬間は決まって一致するという。

「足場を取った瞬間に『ああ、できたな』と思うんです。自分がどこに行っても『物が残る』っていうのは、この仕事の素晴らしさだと思っています」

だからこそ、清水建設が花園改修工事に入札すると知った際に「(権利が)取れたら、俺が乗り込む」と会社へ直訴した。入札にも参加し、16年冬に落札が決定。入社して初めてのラグビー事業が、最後の大仕事として巡ってきた。ゴルフ練習場の名残があった北側にはスタンドが新設され、スコアボードは大型ビジョンに生まれ変わった。客席の長いすは全席セパレートタイプとなり、照明設備も新設された。1929年開場の聖地に、板井川さんや200人を超える作業員、協力企業や東大阪市などの熱い思いが込められた。

ラグビーを愛するからこそ、改修を終えた板井川さんの指摘は的確で厳しい。

「W杯への盛り上がりはまだ足りない。だからこそ、この新しくなった花園の稼働率を上げて、高校、大学、トップリーグの試合をしながら盛り上げてほしい。W杯が終わって、ラグビー人気低迷では寂しいよ」

花園は全てのラガーマンの「宝物」。最新技術と歴史が共存した聖地は、これからも日本ラグビー界発展の中心にいる。【松本航】

東大阪市のW杯カード
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