日本代表選手の「こだわり」に迫るシリーズ第4回はプロップ具智元(グ・ジウォン、24=ホンダ)。183センチ、122キロを生かした「スクラム」にこだわり、最前線でチームの命運を担う。いかに勝つかを追い求め「低く、力強く、下がらない」にたどり着いた。「ラグビー王国」ニュージーランドで、中1の時に具は人生初のスクラムを組んだ。言われるがままに靴底から感じる芝を踏み込み、目の前の外国人を押した。「低くて、いいね!」。父の東春(ドンチュン)さんからそう褒められ、胸が躍った。今に通じる「低く組んで、力強ければいいんだ。面白いな」という成功体験。眠っていた遺伝子が、目を覚ました。

父は元韓国代表プロップ。物心つく前に引退した東春さんのプレーは、1度だけ映像で見た。ソウルで生まれた具は4歳の頃から釜山で育ち、小6でラグビーを始めた。最初は遊び感覚だったが、中1でウェリントンへ1年間の留学。「韓国で結果を残しても、人気がないから応援されない。智元にはいい環境でやってほしい」。そんな父の思いで最強国の空気を吸った。

中3からは父もプレーした日本で生活し、大分に腰を据えた。数カ月後に19年ワールドカップ(W杯)の日本開催が決まり「これに絶対に出たい」と夢ができた。当時から174センチ、105キロ。当初は小柄な選手にタックルを外され「今日も全然ダメだった…」と落ち込む日々だった。

それでも全国的には無名な日本文理大付高に進学すると、1年時から県選抜に選ばれた。「正直、運が良かったんです」。高校卒業前の自由登校期間は韓国に戻り約1カ月間、大学生とスクラム練習に明け暮れた。朝6時に始まり、2部練習が終わると夜。常に自分より強い相手へと挑み続けることで、低く、力強い姿勢を体に染みこませた。

具が本職とする右プロップは、スクラムの際に相手フッカー、左プロップの間へ頭を入れる。左右からの重圧を一身に受け止めるため、チーム一の巨漢に任されることが多い。拓大在学時の16年にはスーパーラグビー「サンウルブズ」入り。夢に向かって順調に歩む一方、代表でもスクラムを担当する長谷川慎コーチ(46)から何度も「足を下げるな!」と指摘された。

日本代表のスクラムはFW8人が一体となり、同じ方向へ力を集めるスタイル。大学レベルで力が突出していた具は、組む瞬間に足を後ろへと下げる癖がついていた。「大学では苦しかったら、自分の姿勢を楽にしてからでも、押せていた」。だが、世界レベルは1つに集めた力が分散した一瞬を見逃してくれず、スクラムが崩壊する。練習後は毎日1対1の組み合いを10分間、黙々と続けた。在籍するホンダの関係者も「ジウォンの努力は頭が下がる」と評す真面目さで、昨秋に初キャップをつかんだ。

「押されたら相手ボールになったり、用意した攻撃ができない。スクラムにはプライドをかけています」

温厚な性格で愛称は「グーくん」。「最初からこういう体だったから…」とプロップ一筋でここまで来た。そのプライドは日本代表の根幹となる。【松本航】

日本代表プロップ具智元
日本代表プロップ具智元