今回の連載からは、スーパーラグビーの日本チーム、サンウルブズで奮闘し、ワールドカップ(W杯)初出場を目指す若手選手の「こだわり」がテーマ。初回はチームの攻撃をリードするSOでありながら、積極的な仕掛けが魅力の松田力也(24=パナソニック)。自身のプレースタイルを一から考えさせられた元オーストラリア代表SOとの出会い、仕掛ける際の一瞬の思考判断に迫った。

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今でも忘れられない出会いが松田にはある。京都・伏見工高で2度花園に出場し、高校、U17、U20で日本代表入り。帝京大では1年からレギュラーをつかんだ。そんな逸材が何もさせてもらえなかった。

16年1月の日本選手権パナソニック戦。当時3年でSOとして出場し、対面にはオーストラリア代表で51キャップを誇るベリック・バーンズがいた。まっすぐ走ってきたと思ったらパス、パスかと思いきやラン。足が止まれば、簡単にディフェンス裏へのキックを許した。「ボールを持ったら何をするか全く分からなかった。自分が対面で嫌なことばかりされた。本当に衝撃的で、超一流でした」。子ども扱いされ続けた80分間を、今も興奮冷めやまぬ様子で振り返った。

衝撃的な出会いは、憧れにも変わり、自分の武器にもなった。バーンズとの対戦で、SOとして仕掛けることの大切さを知った。それまでのチームは、CTBやWTBに優秀な選手がいたため、パス回しに徹していた。それでも通用していたが、考えが変わった。「パスばかりだと相手は外ばかり見る。ならどこが空くか。ダミーを振った自分の前が空くんですよね。そういうのを考えて楽しさを見つけ出しました」。

帝京大卒業後は、バーンズの背中を追いかけるように、パナソニック入りした。言葉の壁はあったが、一流のプレーを間近で見ることができ、バーンズから熱心にアドバイスをもらった。そしてSOとしての仕掛けを磨くうちに、1つの答えが見つかった。

「一番簡単なのは体の向き。相手がどっちを見ているか」。さらっと言うが簡単ではない。パス、キック、ラン、陣地や風向きに点差。司令塔として、瞬時で判断して最善のプレーを選択する必要がある。仲間の位置も確認しながら、一瞬だけ相手の体を見る。「自分より外に立っているのか、内に立っているのか。パッと見て判断します。直感の部分もある」と感覚派と思いきや「常に前を見て練習できるか。その積み重ねしかない」。基本に徹することで仕掛けのスキルを養った。

日本代表のSO争いにおいて、15年W杯に出場した田村優の存在は大きい。さまざまなスキルで劣るのは自覚しているが、仕掛けだけは負けたくない。「自分が勝負できるのはボールを持って仕掛ける部分。そこからチャンスメークしたい。強気に仕掛けるのはやっていきたい」と話す。秘める思いを胸に、W杯の舞台で世界を驚かせる。【佐々木隆史】

日本代表SO松田力也
日本代表SO松田力也