今週の連載は、日本代表選手の高校時代を恩師が語る。第1回はSH流大(26=サントリー)を熊本・荒尾高(現岱志高)時代に指導した徳井清明監督(52)。スカウト目的で訪れた試合で、ノーマークだった流の存在感に一目ぼれ。将来の日本代表の可能性を感じ、秘めたるキャプテンシーを伸ばした。

日本代表の流大
日本代表の流大

徳井はスカウト目的で福岡を訪れた。毎年行われるクラブチームによるリーグ戦。オール福岡に所属する選手を中心にチェックする中、人一倍の輝きを放つ選手に気づいた。SHとしてのプレーは並。だがFWへの迷いのない指示、自信を持った表情、試合中絶え間なく出し続ける声が心地良かった。「球筋だけでは高校では伸びない。僕を引きつけた一番の材料はそれですね」。徳井の心は、すぐに奪われた。

オール福岡に選ばれていないのも功を奏した。福岡県内の強豪校は流に目を付けていない。自身もノーマークだったが、初めて見たプレーで一発合格だった。「お前ね、絶対日本代表になれるけんね。日本代表になるつもりでおいで」。東福岡高に進学希望だった流を引き寄せた。

ラグビー日本代表のSH流大を熊本・荒尾高(現岱志高)時代に指導した徳井清明監督
ラグビー日本代表のSH流大を熊本・荒尾高(現岱志高)時代に指導した徳井清明監督

県内の強豪校らしく実力主義の世界で、流は1年の4月からAチームに定着した。実力はあったが、周囲のやっかみやひがみもあった。だが謙虚な姿勢が、そんな部員の見方を変えた。学校の授業が終わり、最初にグラウンドに現れるのはいつも流。誰よりも早く練習の準備をし、練習後の個人練習も欠かさない。「だからあいつの言動、後ろ姿に誰も文句を言えない。普通のことを普通にやれる能力も大きな魅力の1つ」。グラウンド内外での努力を惜しまなかった。

常に声を出し、チームメートとの衝突も恐れずに戦った3年間。高いキャプテンシーを示し続けたが、壁にぶつかることも多かった。3年になり主将として臨んだ夏の菅平合宿最終日。山梨・日川高との練習試合で、疲労もあって惨敗。チームのふがいなさを表情に表した流に、徳井はすかさず言った。「お前ね、言いたいことがあったら言わなダメやろ。目標を達成するために必要なことだったら嫌われてもいい。私利私欲じゃなくてチームを考えての発言だったら、絶対にみんな分かるから」。その日2度目のミーティングでチームの結束力を高め、結果的に2年連続花園出場を果たした。

選手としての技術も3年間で成長した。体が小さいために、ボールをさばくスピードは徹底させた。巨漢に埋もれても「すーっと通る声」ですぐに居場所が分かる。ワールドカップ(W杯)では「相手をきりきり舞いさせる感じでSOとリンクして、FWがうまくマッチすれば面白い」と想像して目尻を下げた。(敬称略)

【佐々木隆史】