<大相撲秋場所>◇12日目◇25日◇東京・両国国技館

 東前頭10枚目の逸ノ城(21=湊)が大関豪栄道を上手投げで破り、11勝目を挙げた。前日の稀勢の里戦に続き、新入幕の2日連続大関戦勝利は昭和以降初めて。今日13日目は横綱鶴竜との結びの一番が組まれた。新入幕の横綱戦は07年秋場所の豪栄道以来7年ぶりだが、ザンバラ髪での挑戦は初。勝てば73年秋場所の大錦以来3人目で、初土俵から5場所目での金星獲得は、武双山の7場所を2場所更新する。

 逸ノ城が今場所一番の強さで満員の館内をどよめかせた。頭をつけて左上手を引く豪栄道の理想形でも、右下手の半身で機を待った。技能の高い相手の巻き替えを速さで上回り、左上手も引く。迷わず一気の寄り。土俵下まで投げ捨てた。新入幕力士では、昭和以降初の2日連続大関戦勝利。変化して勝った稀勢の里戦を反省し「思い切り当たって、前に出て勝ったので良かった」。土俵際で少しバランスを崩したため「90点」と自己評価し「本当にうれしい」と笑顔も見せた。

 モンゴルの遊牧民出身。角界入りしなければ、大草原を大型ダンプで滑走していたかもしれない。少年時代からの夢はトラック運転手。父アルタンホヤグさんが運転する助手席に座り、大きなハンドルで大きな車体を操る姿に憧れた。「丸太とか岩とか大きな荷物を運びたかったんです。実際に運転も教わっていました」。草原から土俵へ。夢舞台は変わってもダンプのような力強い相撲で、大関を運び出した。

 次は史上初のザンバラ力士による横綱挑戦。「まじかよ」が素直な気持ち。勝てば73年秋場所の大錦以来、41年ぶり3人目の快挙だが「明日は無理。相手は横綱ですよ。(勝つ可能性は)ゼロです」と×印を太い指でつくった。「思い切り当たります。1、2秒で負けないように」。謙虚で無欲な姿勢だからこそ、思い切りの良さが脅威となる。

 伊勢ケ浜審判部長(元横綱旭富士)は、1差で追う全勝白鵬との対戦を「優勝がかかってくるし、面白いんじゃない。ワクワクするでしょ」と含みを持たせた。一方で逸ノ城は「優勝したいか?」と問われても「いや、ないです」と笑いを誘った。湊部屋の後援者らは尾頭付きのタイなど、優勝準備も始めている。新入幕の優勝は1914年(大3)5月場所の両国以来100年ぶり。逸ノ城の快進撃は、2横綱さえ土俵外に運びかねない。【鎌田直秀】<逸ノ城駿(いちのじょう・たかし)アラカルト>

 ▽本名

 アルタンホヤグ・イチンノロブ

 ▽生まれ

 1993年4月7日、モンゴル・アルガンハイ県生まれ。ウランバートルから400キロ離れた大草原で家畜とともに遊牧生活

 ▽サイズ

 192センチ199キロ。胴囲152センチ太もも92センチ足31センチ

 ▽家族

 両親と妹、弟

 ▽愛称

 イチコ

 ▽相撲歴

 中学、高校時代はモンゴル相撲と柔道の経験が少しだけ。乗馬は生活の一部。モンゴルで開催された選抜相撲大会で優勝し、バットツェンゲル高を中退して10年3月に鳥取城北高入学。外国人枠の影響もあり、卒業後1年間浪人。13年9月の全日本実業団選手権で個人優勝し、幕下15枚目格付け出し資格取得

 ▽得意

 右四つ、寄り

 ▽苦手

 カレーライス、歌

 ▽食

 好物は空揚げ、ケーキ、ソフトクリーム

 ▽趣味

 映画観賞。食べ歩き。相撲