日本のプロ野球から監督の「猛抗議」が減っている感がある。今季も阪神の取材を重ねるが、試合中、審判の微妙な判定があると金本監督がゆっくりベンチを出て、両手で四角のジェスチャーを示す。数分のリプレー検証をへて、成否が明らかになる。球場に何度も映像が流され、観客は盛り上がる。やがて、白黒はっきりして試合再開。何事もなかったかのように、戦いは粛々と進んでいく…。

 これが今年の野球場の光景だ。ニッカンのデータベースでも、開幕から1カ月半の5月15日までを対象に「抗議」でキーワード検索したが、NPB関連の記事は2件だけ。昨年同時期の7件から減った。かつては違う。審判に怒り、口角泡を飛ばしていた。阪神でも02年8月の巨人戦で三塁ゴロの送球を捕った一塁アリアスの離塁が早いとしてセーフになると、星野監督が猛抗議して田淵チーフ打撃コーチとともに退場。07年岡田監督や13年和田監督も、いまならリクエスト制度の対象になるプレーを巡って退場になっている。

 現役時に微妙な判定で退場経験がある、球界のあるコーチは「以前は審判の判定は何でも『絶対』だっただけに余計に感情が入る。生活がかかっているからね。でも、人間だからミスもする。今は選手と審判の関係性も変わってきている」と話した。ハイテク化が進んで客観的に判定できるだけに、戦う男たちの冷静さが際立ち「人間臭さ」が見えにくくなった。あらがえない時代の流れだが、勝負が生む熱気や激情までが薄れていないか。正確だから面白いとは言い切れない。【阪神担当 酒井俊作】