近い将来“投の柱”になるべき素材。だからこそ、あえて苦言を呈したい。阪神望月惇志(19)だ。このコーナーにはすでに登場している高卒ルーキー(ドラフト4位)だが、チームの期待度は、望月の登板日になると1軍の指揮官金本監督がよく鳴尾浜球場に姿を見せることで明確。16日のソフトバンク戦も予想通りネット裏の球団ブースに陣取った。己をアピールする大チャンス。マウンド上では落ち着いている。188センチ。大きな体が頼もしい。ストレートは最速151キロを計測。同監督は帰り際「真っすぐはまあまあ」と意味深な評価をして、1軍の試合が行われる京セラドーム大阪に向かったが、その言葉の裏側を推測することにした。

 自らが犯した2つのエラーがチームの敗戦を招いた。それも、場面こそ違え同じ三塁への悪送球だ。勝ち負けにあまりこだわらないファームのゲームだから、まだ許されるが、これが1軍で優勝がかかったゲームなら、自分のみならずチームにも迷惑を掛ける、重たい1敗になることを肝に銘じることだ。まずは3回だ。連打で無死一、二塁のピンチ。続く古沢の送りバントを三塁側へダッシュして捕球。いい球なら完全なアウトのタイミングだったが、球を握りそこなったままの送球は、ひっかけて悪送球。三塁手が身をていして捕球を試みたが、球は転々とファウルグラウンドへ。このあと、ショートの失策があって迎えたさらに苦しい局面を、この回2失点で食い止めるあたりは、将来の柱たる片りんのあらわれだが、6回の投ゴロを、前回とまるっきり同じところへの悪送球を繰り返したのはいただけない。

 あの送球、心配なのはイップス。久保ピッチングコーチに聞いてみる。「練習でも、時々ああいうエラーはありますね。いろいろ話をして課題のひとつにしていくべきかもしれませんね」となると、逆にあまり意識させない方がいい。過去に故・小林繁さん、仲田幸司さんがイップスで苦しんでいたのを思い出す。我々も現役時代よく注意された。「いいか……。よく聞けよ。ピッチャーはなあ“ただ投げておればいい”というもんじゃないんや。バッターに対して投球して手から球が離れた瞬間から9人目の野手なんや」と-。確かにおっしゃるとおりだが、私もそうだったようにピッチングに比べ、フィールディングへの関心度はどうしても希薄になりがち。プロである以上あってはならないことで、言い訳に過ぎないが、望月はまだ若い。余計な心配をするより、無駄な得点を与えない方が大事だ。

 「三塁への悪送球はプロに入って初めてだと思いますが、1点の重みといいますか、1点を大事にしないといけないのがよくわかりました。両方の場面をきっちり守っていれば、勝ち投手になっていたかもしれませんからね。ピッチャーはやはり勝ち星ですから。ピッチングの方もいまひとつ自分では納得していません。変化球でカウントを稼ぐこともひとつの課題にしていますが全然ダメでした。真っすぐも、ちょっと力が入って思い通りの投球ができませんでした。いまは何事もひとつ、ひとつが勉強です。これからも頑張ります」

 指揮官に見せたピッチング内容は7回6安打4失点(自責1)無四球、2奪三振。評価は冒頭に明記したとおりだが、プロとして見た場合まだまだ甘い。今後やるべきことは多々ある。フォームの固定。制球力。打者とのかけひき。状況判断。打球処理。バント処理。ベースカバー。バックアップ。そしてクイック投法等々、数えあげれば切りがないが、これがプロ野球選手としての財産であり、桧(ひのき)舞台で活躍する糧となるのだ。簡単に1軍で通用する世界ではない。高いレベルの技術を身に付け、持続できるだけの力を持つことだ。

 金本監督が語った言葉の裏側は「プロは、当たり前のことを、当たり前にやれる選手になって一人前」だったのだろう。まさしく本音だ。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)