第89回選抜高校野球大会(17年3月19日開幕、甲子園)の21世紀枠の各地区候補9校が16日、日本高野連から発表され、東北は不来方(こずかた)が選ばれた。部員10人で臨んだ今年の秋季岩手大会で準優勝。部員不足などの困難な状況をはね返して東北大会に初出場し、春夏通じて初の甲子園に前進した。選考委員会は来年1月27日に行われる。

 小雪がちらつく午後3時過ぎ。エースで4番打者の小比類巻圭汰主将(2年)は、練習を抜け出してトイレに向かう途中に小山健人監督(29)から吉報を告げられた。「正直、選ばれると思ってなかった。最初はパニックになった。今も実感がない」。同じ東北に戦績面で上回る推薦校もあったが、10人のハンディをものともせず戦った姿が評価された。小比類巻は「10人を言い訳にせず、できることをやってきた」と胸を張った。

 不来方は盛岡市の南に位置する矢巾町にあり、体育科のある公立校。今夏に13人の3年生が引退してからは10人(2年生7人、1年生3人)での活動を余儀なくされた。小山監督の頭の中には逆転の発想が浮かんでいた。「人数が少なくて全体の守備練習ができないなら、いっそのこと課題だった打撃に集中してやってみよう」。部員10人で行う効率の上がらない守備練習を捨て、打撃練習に特化する作戦に出た。

 今夏は女子マネジャーがボールを入れる打撃マシンに加え、2人の打撃投手を5メートル前に立たせ、3カ所でみっちり打ち込んだ。今秋の岩手大会は打撃練習の成果が出て、1試合平均10安打、平均6得点で準優勝。小比類巻は「失点は仕方ない。打たないと自分たちは勝てない」。小山監督も「人数が少ない分、1人1人の練習量が増えた。ここまで成長するとは」と驚いていた。

 試合では、守備が終わると1人はベースコーチに走る。バットボーイも全員で行い、捕手の防具装着なども自分でやらなければならない。だが、小比類巻は「10人でも野球はできるし、実際に勝っている。人数は関係ない。(他校とも)大きな差はない」と言い切る。小山監督は「これからも入部希望者がいれば…」と笑ったが、現戦力でも立派に戦える。10人で甲子園に乗り込む日が待ち遠しい。【高橋洋平】

 ◆不来方 1988年(昭63)に開校した県立校。野球部も88年に創部。人文、理数、芸術、外国語、体育の5学系に分かれる。生徒数は827人(女子455人)。野球部員は10人で、女子マネジャー3人。甲子園出場はなし。主なOBはボートレース菊地孝平。所在地は紫波郡矢巾町南矢幅第9地割1の1。平藤淳校長。

 ◆主な甲子園の少人数チーム 74年池田(徳島)は11人で準優勝し「さわやかイレブン」と呼ばれた。エース山沖之彦を擁した77年の中村(高知)は12人で「二十四の瞳」と呼ばれ準優勝した。87年大成(和歌山)はわずか10人。初戦敗退もV候補の東海大甲府に1点差(3-4)と善戦した。近年は部員不足の場合に合同チームを組むことが可能になったため珍しいが、13年はいわき海星(福島)が16人、今年は小豆島(香川)が17人でベンチ入り登録人数(18人)に満たなかった。いずれもセンバツ。