<センバツ高校野球:日大三6-5明徳義塾>◇25日◇1回戦

 昨年準優勝で、優勝候補の日大三(東京)が明徳義塾(高知)に逆転勝ちした。1点を追う8回裏、鈴木貴弘捕手(3年)が左中間に逆転の2点二塁打。その回の表の守備で、本塁への悪送球を顔面で受けて唇を裂傷、前歯2本が抜け落ちた9番打者が、痛みに耐えて殊勲打を放った。明徳義塾の馬淵史郎監督(55)は、春夏通じて21度目の甲子園大会出場で初の初戦敗退となった。

 にじむ痛みなど忘れていた。1点を追う8回裏、1死一、二塁。9番鈴木が打席に入ると、一塁側応援スタンドから、ひときわ大きい声が飛んだ。「絶対に負けられない気持ちで打席に立った」。2球目を強振すると、打球は左中間を深々と破る決勝の二塁打。殊勲のヒーローは「吉永が苦しんでいたので、うれしかった」と女房役らしく話した。

 エース吉永の制球が定まらず、後手に回っていた。7回にようやく追いつくも、8回表に二塁菅沼の本塁悪送球で勝ち越された。そのハーフバウンドの送球を口に受け、鈴木は負傷した。「地面を見ると歯が抜けていて驚いた」。口の中は血にまみれた。小倉全由監督(53)が駆け寄って声をかけた。「大丈夫です、と答えた。交代する気はまったくなかった」。準優勝を経験した昨春は背番号12ながら全試合出場。昨秋明治神宮大会で優勝し、甲子園での日本一を目指すだけに、劣勢のまま退場するわけにはいかなかった。

 治療を受けて出場を続ける鈴木の気迫が、周囲を勇気づけた。吉永は「(口から)血が出ていたのが見えた。体で止めた必死さが伝わった。鈴木以外の捕手には投げていないので、代わってしまうと不安だった」。マスクをかぶり続けた男に、かつて経験のない189球を投げ切った。小倉監督は「普段から元気があって、よく吉永を支えてくれる子。相当痛かったと思うが、本当によく打ってくれた」と攻守にチームを支えた鈴木をねぎらった。

 鈴木は東北(宮城)との対戦を熱望している。東北のエースで主将の上村健人(3年)が中学時代に同じ神奈川・海老名シニアに所属していたからだ。震災の苦難から出場にこぎ着いた旧友へ、この日のプレーは熱いメッセージとなったはずだ。【清水智彦】