<高校野球神奈川大会:桐光学園4-2相洋>◇14日◇2回戦◇保土ケ谷・神奈川新聞スタジアム

 怪物の夏はヒヤヒヤのスタートとなった。桐光学園・松井裕樹投手(3年)が先発登板し、辛勝した。気温32度の中、9回7安打2失点の9奪三振。最速は144キロと本来の球のキレはなく、5回に直球を狙い打たれて2点を失った。2点リードの9回は1死満塁のピンチを招くなど最後まで苦しんだ。

 9回表1死満塁。2点リードも、一打逆転の状況で松井は最後の力を振り絞った。左手で2度胸をたたいてスイッチを入れた。初球にこの日最速となる144キロの直球を投じると、カウント1ボール2ストライクからの5球目。「満塁だったので三振を狙った」と、得意のスライダーで空振り三振を奪った。最後の打者を138キロの直球で一邪飛に打ち取ると、両手を広げて「危ねー!」と叫んだ。思わず声が漏れるほど、苦しんでの勝利だった。

 気持ちのアツさが不調の一因だった。昨夏以来の甲子園への初戦。「待ちに待った夏の大会初戦ということもあって、テンションが上がって球が浮ついた」と、力みから直球の制球が定まらない。3回には先頭打者に外角高めの直球を左越え二塁打とされた。2死までこぎ着けたが、いつもの笑顔が出ない。異変を察知した田中幸城捕手(1年)が駆け寄ってきた。「弱気にならず、腕を振っていこう」とこわばった顔をつかまれるほどだった。

 気温32度を超える暑さにも苦しんだ。攻守交代時には全力疾走を心がける左腕が、この日ばかりはゆっくりとした足取りだった。2-0で迎えた5回1死二、三塁。相洋の9番栗田亨祐内野手(3年)に球威のない138キロの直球を狙われた。普段なら打ち取れたはずの当たりはふらふらと上がり、左翼線にポトリと落ちた。同点適時打をぼうぜんと見つめた。

 対策は万全のはずだった。6月上旬から行われた強化合宿ではベンチコートを羽織って走った。試合中は汗で排出したミネラルを補給するため豆粒ほどの塩をなめた。水分補給にも気を配り、レンジャーズ・ダルビッシュも愛飲するスポーツドリンクを「のどが渇く前に飲む」ように心がけた。だが、「体力がキツかった。暑さ対策をもっとしないとなと思いました」と反省するほど苦しんだ。6回以降は変化球を多投して奪三振のペースを上げたものの、球威もキレも本来の姿には戻らなかった。

 それでも勝った。次戦は17日の上矢部戦だ。「どこよりも苦しい初戦を取れた。この試合があったから勝てていけたと、後で言えるようにしたい」とホッとしたようにようやく笑みを浮かべた。【島根純】