<全国高校野球選手権:盛岡大付4-3東海大相模>◇16日◇2回戦

 盛岡大付(岩手)のプロ注目右腕、松本裕樹投手(3年)が8安打3失点で完投し、優勝候補の東海大相模(神奈川)を撃破した。最速150キロの直球はこの日、143キロ止まりで真っ向勝負せず、7つの変化球を使い分け、強力打線に的を絞らせなかった。

 雨に打たれても、マウンドの松本はポーカーフェースを崩さなかった。2点リードの9回裏2死一、二塁から右前適時打を浴びてリードは1点に。「ドキドキというのはありました」。それでも冷静さを失わず、代打長井を二塁ゴロに打ち取ったのを見届けると右手でガッツポーズ。チームに夏の初勝利をもたらし、「(校歌を)大きい声で歌えました」と喜んだ。

 相手は神奈川大会で11本塁打をマークした強力打線。「正面から戦ったら負ける」と、あえて最速150キロの直球勝負を避けた。直球は見せ球に、「いろんなボールを投げ分けることが出来た」とスライダー、カーブ、チェンジアップなど、打者を観察し7種の変化球を使い分けた。指先の繊細な感覚は、関口清治監督(37)が「教えられない。もともと持っていた」と認める天性のもの。キャッチボール中に遊びで持ち方を試し、実戦で使う。その繰り返しで球種を増やした。

 雨で内野の土がぬかるむ初回に失策も絡んで2失点したが、2回から8回までは散発3安打、4度の3者凡退。力を抜いた投球で抑えた。相手をあざ笑うかのようなピッチングには理由がある。7月24日の岩手大会決勝で発症した右肘の炎症を抱えていた。この日まで、ほぼノースロー調整で岩手、神奈川、大阪などさまざまな病院に通い、マッサージ、電気治療、整体などあらゆる手を尽くして回復に努めてきた。

 疲労こそ抜けたが、万全の状態ではない。だが、状況に応じた「脱力スタイル」でスタミナを配分し、最速143キロは9回に記録した。「楽しかった」と故障を感じさせず、マウンド上で時折不敵に笑いながら、123球を投げ抜いた。

 打撃センスも光った。6回2死一塁から左前打で出塁し、勝ち越しホームを踏んだ。高校通算54本塁打で「二刀流」と称されることもあるが、「高校生だから打って投げるのは当たり前」と、投手一本でプロ入りの夢は変わらない。

 神奈川から岩手に飛んで2年半。故郷の強豪を倒し「やってきたことが証明された」と胸を張った。目標は全国制覇。「やるべきことは変わらない」とクールに言った。【高場泉穂】<松本裕樹(まつもと・ゆうき)アラカルト>

 ◆生まれ

 1996年(平8)4月14日、横浜市生まれ。

 ◆球歴

 南瀬谷小1年で軟式チーム南瀬谷ライオンズで野球を始め、南瀬谷中では瀬谷ボーイズに所属。盛岡大付では1年春からベンチ入りし、2年秋から背番号1。

 ◆甲子園

 今回が3度目。1年夏は背番号11でベンチ入りも出場機会なし。2年春は背番号8の投手兼外野手。初戦の安田学園(東京)戦に先発して8回2/3を6安打9奪三振で3失点、6番打者として2打数1安打。3回戦の敦賀気比(福井)戦には2番手で登板して4回2/3を1安打1奪三振無失点、4番で4打数1安打だった。

 ◆野菜嫌い

 野菜は「おいしくない」と、一切口にしない。実家から送ってもらう野菜ジュースと牛乳で栄養を補う。

 ◆家族

 両親、兄、弟。兄健太(20)は、社会人チーム「フェデックス」に所属する右腕投手。弟跳馬(13)は瀬谷ボーイズに所属する左腕投手。

 ◆サイズ

 183センチ、80キロ。足のサイズは29センチ。右投げ左打ち。