男の引き際は、どうあるべきなのでしょうか-。

 日本シリーズ開幕を目前に控えた10月18日、広島黒田博樹投手(41)が、今季限りでの現役引退を発表しました。大勝負を控えた状況でもあり、黒田自身は「すべて終わってから、みんなに伝えよう」と考えていたものの、親交の深い同僚の新井から「最後の勇姿をファンに見てもらった方がいいんじゃないですか」との助言を受けて決断。決戦前の引退発表となったわけです。「すべてが終わってから」という黒田の思いの裏には、メジャーで実感した「引き際」の在り方への疑問があったのではないでしょうか。

 メジャーでは10月10日、レッドソックスの主砲デービッド・オルティス内野手(41)が、現役最後の試合を終えました。ア・リーグ地区シリーズで敗れ、現役生活にピリオドを打ちました。昨年11月、今季限りでの引退を発表したものの、公式戦では打率3割1分5厘、38本塁打、127打点とMVP級の活躍を見せ、レ軍は地区優勝。結果的にポストシーズンは勝ち抜けなかったものの、年間を通した全米中の「惜別行脚」は、ファンのためのみならず、興行的にも大成功を収めました。

 引退の「事前告知」の先駆けとなったのは、2632試合連続出場の大記録を打ち立て、01年限りで引退した鉄人カル・リプケン(オリオールズ)でしょう。リプケンは成績低下をよそに、ペナント争いとは無縁の消化試合でも各地で「引退興行」に駆り出されました。その裏に、破格の集客力を残したビジネス的な観点があることは言うまでもありません。

 13年3月の春季キャンプ中には、ヤンキースのクローザー、マリアーノ・リベラ投手がシーズン後の現役引退を発表しました。予定された引退を1年延長した背景があったとはいえ、長く、厳しい闘いを前にしたチーム内に、「今季限り宣言」に対して、ある種の違和感が残ったのも事実でした。翌14年2月には、ヤ軍の主将デレク・ジーター遊撃手が、シーズン終了後の引退を発表。当時、ヤ軍に在籍した黒田は、他の同僚と一緒に2人の会見を静かに見守っていました。

 現役最終年が全米中に告知されたリベラ、ジーターは、ともにオールスターに選出されたほか、遠征先の各地では、オリジナル記念品が贈呈されるなど、惜別セレモニーが行われました。全国区の人気を持つスーパースターの最後の勇姿をひと目見ようと、多くのファンが「引退興行」に足を運んだわけです。

 確かに、引き際は難しく、おそらく「正解」はないでしょう。ただ、日本の場合、シーズン前の「事前告知」が素直に受け入れられるでしょうか。

 常に「次が最後の登板」と言い続けてきた黒田の潔い幕の引き方が、日本全国のファンの心に深く刻まれたことだけは間違いありません。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)