FAに関連した移籍が盛んなMLB。オフシーズンだけでなく、FAを見越したトレードなど、それこそ日常のように行われている。とはいえメジャーデビューの頃から活躍してきたいわゆる生え抜きのスター選手が大型契約で他のチームに移籍してしまうことに反感を覚えるファンが多いことは変わりはない。

 そんなFA移籍選手が遠征で古巣の地に戻れば、ファンからブーイングを受け、メディアから手厳しい質問の嵐を浴びせられるのもまた見慣れた光景ではある。今週そんな窮地に立たされているのが、今シーズン10年2億4000万ドルの契約を結んでヤンキースからマリナーズに移籍したロビンソン・カノ内野手だ。29日からのヤンキースとの3連戦は移籍後初のニューヨーク登場となったのである。

 カノは2001年にヤンキースと契約、2005年にメジャー昇格を果たした後は昨シーズンまで二塁手としてチームの中核を担ってきた。ファンとしては絶対残ってほしい存在だったものの、ヤンキースが提示した条件と折り合うことができず、マリナーズに移ったのである。その姿は高額のサラリーにつられて、さっさとニューヨークを離れた印象を与えたのも事実だ。

 その結果、3連戦を前に行われたカノの記者会見では契約に関する質問が続き、カノが不機嫌になる場面もあったようである。ニューヨークの地元紙ニューヨーク・ポストによれば「自分が話したいのは1つだけだ。ベースボールについて話すためにここにいる」と話し、答えを拒んだということだ。手厳しいことで知られるニューヨークの報道陣の持つ反感を感じていたのだろう。

 一方でそんな反感を逆手にとったユニークなイベントも実行されている。4大テレビ・ネットワークの1つ、NBCの人気トーク番組「ザ・トゥナイト・ショー」がニューヨーク・マンハッタンの中心地にある公園にカノの顔写真が貼り付けられた大きな箱を設置、通りがかりのヤンキース・ファンにカノへのブーイングを行ってもらうというものだ。が、実はこの箱の中にはカノが入っていて、ブーイングの最中に出てくるというドッキリ企画だったのである。

 ファンたちの反応はというと、いずれも写真に対し激しくブーイングをするのだが、カノが現れた途端、笑顔になり「ウェルカムバック・トゥ・ニューヨーク」と言いつつ、カノと握手やハグを交わしていた。その表情の変化はかなり笑えるもので、企画として大成功したようだ。

 お気に入りの選手がお金につられて移籍してしまうのは気に入らない、でも心底嫌いになっているわけでもない、というファン意識が見えた企画だったといえよう。今のMLB人気はそんな複雑な状況のうえに成り立っているともいえそうだ。