【マイアミ(米フロリダ州)=四竈衛】マーリンズのイチロー外野手(41)が、感激の今季1号3ランを放った。メッツ戦に「7番左翼」で出場。4-3と1点リードの8回裏、ダメ押しとなる新天地での初アーチを右翼席へ運んだ。地元ファンからの大声援にカーテンコールで返礼し、チームメートの祝福に喜びをあらわにした。クールなイメージが強いイチローだが、今季は笑顔のシーンが多い。そして、その笑顔が似合っている。

 ファウルで粘るたびに大きくなる「イチローコール」は、イチローの耳にも届いていた。「それぐらいは分かりますよ。緊張しているとはいえ」。と同時に、5球のファウルの間にタイミングが合い始めていたことも感じていた。カウント1-2からの8球目。左腕A・トーレスの時速150キロに対し、体全体をしなやかに回転させ、右翼席へ運んだ。「イッたぁ~、ですかね。カタカナで」。勝負を決めるダメ押し弾に、試合後の言葉も弾んだ。

 新天地初アーチへの反応は、イチローも予想できなかった。歓喜の出迎えに「泣きそうやね」と驚くほどだった。ベンチに戻ると、ヘルメットをもぎ取られ、もみくちゃにされた。「尊敬されてんのか、ナメられてんのか、分からない(笑い)。あれだけうれしそうにしてくれるなんて見たことがない。ただただ、そのことに心を動かされてる、という感じです」。その後も、拍手が鳴りやまず、同僚に促されてカーテンコールで返礼した。「僕が考えてもいないこと、想像していないことをやってくれるので…」。日本最多得点を更新した際、「本塁」を贈呈されたサプライズをはじめ、同僚らとの信頼感、ファンからの声援が、いつもはクールなイチローの言葉を詰まらせた。

 日本のように「年功序列」があるわけではなく、20代前半の若手も、気軽に「イチ」と呼ぶ。その一方で、マ軍内には、着実に「イチロー効果」が広がり始めた。1番ゴードンは、試合前後に簡易マッサージ器具で体をほぐす習慣を身に付けた。一塁モースは「いい打者が使うから」と、除湿剤付きの日本製バットケースを使用。メジャー11年目のプラードにしても、毎試合前、90メートル前後の遠投を欠かさなくなった。いずれも、イチローが模範だった。

 プロである以上、同僚も競争相手であることに変わりはない。ただ、今季ほどイチローが笑顔でグラウンドに飛び出すことは、過去にない。「楽しくさせてくれるのは周りの人間。僕がそうしたくても出来ることではない。本当にみんなにそれを作ってもらって、こんなこと初めての経験ですねえ…」。これまで常に記録の重圧と闘ってきたイチローの心を、気候もファンの心も温かいマイアミが、新境地に導いていることも間違いない。

 ▼イチローが今季初本塁打。これでプロ2年目の93年から、日米を通じ23年連続本塁打となった。日本で23年以上連続本塁打は4人だけで、最長は谷繁の26年連続。王貞治(巨人)ら4人の22年連続を上回った。マーリンズパークでは初アーチで、大リーグで本塁打を放ったのは16球場目。