<イチローインタビューその2>

 2009年のイチロー外野手は、胃潰瘍(かいよう)による故障者リスト入りを経験するなど、決して順風満帆ではなかった。そんな中でも、今後への大きな手応えをつかんでいた。

 -今季最終戦後の記者会見で、2009年が今後の新しい物差しになると話した。その真意は。

 イチロー

 それまで物差しにしていた1994年の結果(130試合で210安打)は、楽しさしか感じない中で出したもの。今年の結果はいろんな恐怖を体験し、知った上で出したものです。全く違う難しい状況で、同じようなペースでヒット(数)を打つことができたという事実は大きい。

 -今後の野球人生でどんな意味を持つのか。

 イチロー

 僕が目標とするのは精神的に7、8割の力加減で結果を残すこと。ここに少し近づいたということではないでしょうか。精神的にも肉体的にも目いっぱい、100に近いところまで出し切ろうとしたのは(大リーグ)1年目以来でした。ただ1年目は記録へのプレッシャーなどがそれほどなく、がむしゃらにやってどれくらいのものが残るのかだった。それが今年は胃潰瘍などのアクシデントによる出遅れで、非常に厳しいところに置かれた。そのなかでできた物差しです。

 -胃潰瘍発覚直前は、見るからに疲れていた。

 イチロー

 WBCから戻ってからは倒れる間際の状態でした。さすがにあの時は“血液のレベルで何か異変があるな”と思いましたよ。

 -かなり以前から自覚症状はあったはず。

 イチロー

 胃がキリキリして体がだるくなる。すごくテンションが落ちるというか、すべてのやる気を失う瞬間が日本ラウンドの間1日に2、3回おとずれるんです。途中で消えることなど絶対にあってはならないことだったので、決勝まで持って本当に良かったですね。

 今季は胃潰瘍以外にも、終盤には左ふくらはぎ故障で8試合を欠場した。200安打を目前にしてのアクシデント。再発すれば目標達成は絶望だった。最初から最後まで、緊張を緩めることができないシーズンだった。(続く)