【アーリントン(米テキサス州)18日(日本時間19日)=四竈衛】ポスティングシステム(入札制度)でメジャー移籍を目指していたダルビッシュ有投手(25)が、レンジャーズと正式契約を交わした。交渉期限を迎える直前、6年6000万ドル(約45億円)で契約。その中に、5年間のうちにサイ・ヤング賞を獲得すれば、6年目に契約を破棄してフリーエージェント(FA)になる、メジャーでも珍しい特記事項が含まれていることが分かった。また背番号は「11」に決まった。宮崎で自主トレ中のダルビッシュはブログで移籍を報告。明日20日(同21日)に本拠地レンジャーズ・ボールパークで入団会見を行う。

 メジャーで1球も投げていない投手としては、異例の契約だった。6年総額6000万ドルの高年俸だけでなく、ダルビッシュの契約にはスーパースター級の項目が盛り込まれていた。デビューから5年間はレ軍の保有権が確定しているものの、その間にサイ・ヤング賞を獲得、または一定の高得票を得れば、6年目に契約を破棄してFAとなる内容だった。

 昨年12月20日の落札以来、契約年数は交渉の焦点の1つとなっていた。高額の入札金を投資したレ軍がFA権取得までの6年を主張したのに対し、将来的な上積みを見込む代理人側は5年を要求。双方の攻防は続き、最終的な接点として見いだしたのが、リーグ最高投手を意味するサイ・ヤング賞の評価を基準とした折衷案だった。代理人の団野村氏は、契約内容の詳細は語らなかったものの「ユニークな項目もありますね」と話していた。

 これまでにAロッド、サバシア(ともにヤンキース)ら実績あるスター選手が、高額の長期契約途中で条件面を見直す条項を付帯した例はあった。また、シリング(元レッドソックス)がサイ・ヤング賞の獲得に伴うボーナス契約を結んだ例もある。だが、新人選手では異例中の異例。結果さえ残せば希望通りの契約年数になり、ダルビッシュ側の自信が表れていると言ってもいい。

 最終決着までの経緯は順調だった。この日、レ軍広報部から記者会見の要項がリリースされたのは、期限3分前の午後3時57分。野村氏は「一瞬、ダメかと思った時期もあった」と振り返ったが、前日の13時間に及ぶロング交渉で、年数、年俸面などの大筋で合意していた。着地点は見えた状態で迎えた最終日だった。

 期限3時間前の午後1時過ぎには、レ軍職員がオフィス2階からスマイル顔のイラストを掲げ、親指を立てる「サムアップ」を見せるなど、球団内では正式発表の準備を着々と進めていた。その後、発表の情報をキャッチした地元メディアも続々と球場入り。会見前には、ダルビッシュの日本での詳細な成績が英文で配布されるなど「レ軍ダルビッシュ誕生」への動きは、確かなものになっていた。

 異例の契約内容だけでなく、実力、注目度とも、今オフのメジャー投手ではNO・1の評価。正式契約は、ダルビッシュ狂騒曲の序章に過ぎない。

 ◆ダルビッシュの契約内容

 6000万ドルのうち5600万ドルが基本年俸分で、400万ドルは大リーグ40人枠に入ることで手にできる。他にもサイ・ヤング賞獲得などの出来高が組み込まれており、満額クリアで1000万ドルとも報じられている。メジャー初契約時の総額としては日本人史上最高。契約延長などを含めても、5年9000万ドル(08~12年)のイチロー(マリナーズ)に次ぐ歴代2位。入札金と契約総額を合わせて約1億1170万ドルになり、メジャー歴代の大型契約をみても投手でこの金額を上回ったのはサバシア(ヤンキース)、サンタナ(メッツ)、ジト(ジャイアンツ)、ハンプトン(元ロッキーズ)、リー(フィリーズ)の5人だけ。また通訳、個人トレーナー、住宅補助、レンタカー代、家族の日米往復運賃なども含まれる。

 ◆サイ・ヤング賞

 史上最多511勝を挙げた大投手の功績をたたえ56年に制定。記者投票により両リーグの最優秀投手に与えられる。最多受賞はクレメンス(元ヤンキース)の7回。