藤浪からは一瞬たりとも目を離せない。阪神藤浪晋太郎投手(21)が投げて打って、魂の走塁で、首位の座を守った。8回12奪三振でチームトップ7勝目。攻撃でも先制打だけでなく、6回の走塁でも激しいプレーをみせた。自身6連勝となる白星で、チームをセ・リーグ唯一の貯金生活に押し戻した。

 野球人、藤浪の信念にブレはない。ちゅうちょなく、利き足の右足を差し出した。自らの意思で捕手高城のブロックに衝突した。1点リードの6回2死満塁。1番上本の左越え二塁打で一塁から脇目も振らず全力疾走だ。最後は野手顔負けのスライディングを決め、リードを4点まで広げた。

 藤浪 必死のプレーだったので(ケガとか)それは考えなかった。

 以前、大量リードで迎えた試合終盤、観客やチームメートを驚かせたことがある。平凡な内野ゴロを打つと、一塁へ猛然と全力疾走。マウンドに向けて力をセーブする-。そんな球界の慣習にとらわれない走塁には、確固たる信念がある。

 藤浪 マウンドでの振る舞いはもちろんですけど、細かいところを野手の方々は見ていると思うんです。内野ゴロ打っても一塁まで全力疾走するとか、走者でしっかりスライディングするとか…。常に一生懸命やろうと思っている。

 その一挙手一投足で仲間を鼓舞したい。降りしきる雨、スパイク裏にこびりつく泥…。マウンドでは悪条件の中、イラ立ちを見せなかった。8回135球を投げ、4安打1失点で猛虎最多の7勝目をもぎ取った。

 今、人さし指と中指の間を指1本分だけ空けて直球を握る。この1センチ前後の空間にスタイルがにじみ出る。大阪桐蔭3年夏、最後の大会が始まる直前に握り方を変えたという。

 藤浪 それまでは2本の指をそろえて投げたりしていたんです。でも引っかけたりシュート回転も多くて。今の握り方の方が指にかかる感覚があるんです。

 一般的に2本の指をくっつけた方が、ボールにスピンをかけやすいとされる。藤浪は18歳にして、見栄えのいいスピンボールよりも安定感を選んだ。プロ3年目、理想像は必ず試合を作る「負けない投手」だ。

 藤浪 昨日、山本さんが粘り強く連敗を(4で)止めてくれたので、楽に投げられました。粘り強く投げようと思っていました。

 自身の最長連勝を6試合に更新し、高卒1年目から3年連続で100イニングを突破。12奪三振で今季115奪三振は両リーグトップとなったが「三振はアウトの手段でしかないですし…」と気に留めない。個人記録に目もくれず、首位の座を守った事実に価値を見いだす。藤浪の立ち振る舞いはもう、誰の目にも大黒柱と映る。【佐井陽介】

 ▼藤浪が今季5度目の2桁奪三振。昨季の5度に並ぶシーズン自己最多となった。阪神の投手で年間5度以上の2桁奪三振を2度記録したのは、江夏豊6度(67~72年)井川慶2度(04、06年)に次いで3人目。2年連続は江夏以来2人目だ。この日藤浪は今季115奪三振となり、大谷(日本ハム)107を抜いて両リーグ最多。また、今季の投球回数は107回2/3。高卒1年目から3年連続100イニング以上は、田中(楽天)の7年(07~13年)、阪神では江夏の9年(67~75年)以来。

 ▼藤浪は2回に左翼へ先制二塁打を放ち、今季4打点目。登板2試合連続打点は今季初でプロ3度目。13年の入団以来、藤浪が打点を挙げた試合で阪神は10戦全勝。